朝日新聞の藤生明編集委員による右派研究第2弾。前作『ドキュメント日本会議』(ちくま新書)同様、手堅くまとめている。
書き出しは東京・富岡八幡宮の宮司惨殺事件(2017年12月)。事件から、祖父の富岡盛彦・神社本庁元事務総長が深くかかわった戦後の反共団体「新日本協議会」へつなぎ、その創設者で「特高警察の主」と恐れられた安倍源基・元内相、彼につらなる政財官界のタカ派人脈、富岡盛彦が人生の集大成として結成に奔走した宗教右派「日本を守る会」へと展開していく。「日本を守る会」は「日本会議」の前身で、事件の舞台、富岡八幡宮が神社本庁、新日本協議会、日本を守る会・日本会議と一本の糸でつながっていくさまは一気に読める。
ツートップってこういう人たち
書き出しとなった富岡八幡宮事件では、姉を刺し殺した富岡茂永の人物像が新たな視点から描かれている。34歳で別表神社と言われる有名神社の宮司となった茂永が、尊敬する祖父を追うように、青年神職組織でキャリアをつみ、日本会議江東支部をつくり、平和祈念館建設構想阻止に走り回り、40歳を前に東京都の青年神職組織でトップに立つ姿を、ここまで詳細につづった報道はこれまでなかったはずだ。
そして、著者は「タカ派的な発言の数々。それがどこか上滑りして聞こえるのは、事件取材を通じ、憂国の神道家のイメージからかけ離れた茂永の生活ぶり、金満ぶりを同僚たちから聞いてしまったからだろうか」とし、その証左として、茂永が催した東京都神道青年会50周年記念大会の豪華絢爛さまで、どこで探し出してきたのか、会報資料からピックアップする。
「招待客が250人を超す盛況が予想されたことから、表参道の顔だった青山ダイヤモンドホールに会場を急きょ変更。会報『やくわえ』には、『(祝賀会では)全員着席のフランス料理フルコースというかつてない豪華なメニュー――』とあり、歌手岩崎宏美がヒット曲『ロマンス』など三曲を披露した」。こんな知られざる「小ネタ」が随所にちりばめられていることが、「神社本庁」という小難しそうなテーマを飽きさせずに読ませる隠し味になっている点は見逃せない。
本書の出版前後、文中で紙巾を割いている「神社界のツートップ」と「靖国神社」がそれぞれ話題になった。まず前者、ツートップとは田中恒清・神社本庁総長と、打田文博・神道政治連盟会長である。田中は9月の神社本庁理事会で、懲戒免職にした神社本庁幹部職員らと本庁が争う訴訟の和解を理事に求められたことに反発し、辞意を表明した(その後、事実上撤回)。強く慰留したのが打田だとみられる。本書では、幹部職員らが訴えた神社本庁職員宿舎をめぐる不透明な取引について、裁判資料などをもとに詳述する一方、田中と打田の二人を通し、神社本庁の内紛、現状を読み解いている。著者によると、直近の神社本庁総長3人は、キングメーカーである元本庁幹部職員の打田が伴走し、トップに登りつめたという。