全曲通して演奏すると30分を超えるボリューム
ベートーヴェンの古典派の時代にはもう時代遅れとなっていた「フーガ」をショパンがたくさん作ることはありませんでしたが、天才的なひらめきで短い曲を作ることにも長けていたショパンにとって、「前奏曲」は魅力的な題材だったといえます。
ショパンは前奏曲を作りためて、そしてほぼ間違いなくJ.S.バッハへのリスペクトを込めて、すべての調による「前奏曲集」を編んだのです。調の並び方はバッハのものとは異なっていますが、「前奏曲集 Op.28」は、ショパンにおける「ハーモニーの小宇宙」ともいうべき曲集です。
しかし生前、ピアニストとしてのショパンは、決して前奏曲集を全曲演奏することはなく、せいぜい4~5曲を、まとまって演奏するのみでした。現代でも、4~5曲の抜粋ということはよく行われますが、最近では、24曲をまとまって演奏するほうが多くなっているように感じられます。全曲通して演奏すると、30分を超えるボリュームですが、ショパンの前奏曲にかけた情熱を表現したいと挑戦するピアニストが増えたのです。
ショパンの「前奏曲集」は、日本の胃腸薬のCMでも有名な第7番、「雨だれ」で知られる第15番などの人気曲も含まれていますし、第7番や、「葬送」というニックネームでも知られる第20番などをテーマ曲として、モンポウや、ラフマニノフ、ブゾーニといった、やはりピアニストであり作曲家でもあった人たちが、後に「ショパンの主題による変奏曲」を作り上げています。
鍵盤音楽の金字塔であるJ.S.バッハの「平均律」の精神を受け継いだショパンの「前奏曲集」は、これもまた輝かしいピアノのレパートリーとなり、さらに後世の音楽に多大なる影響を与えたのです。
本田聖嗣