「経験談爆弾」にご用心 武田砂鉄さんが年長者の助言に思う理不尽

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   with 11月号の「結婚神話解体工事」で、ライターの武田砂鉄さんが年長者からの「経験談爆弾」に警戒を呼びかけている。37年の歴史がある講談社の女性ファッション誌。読者層の中心である20~30代をあまたの「結婚神話」から解放するのがコラムの趣旨か。

「あなたのためを思って言っているんだからね、と言ってくる人の話は聞かなくてもいい。なぜって、あなたのためを思って言っている可能性が極めて低いからである」

   意表を突いた書き出し。読者を引き込もうとするなら、こうした断定も有効だ。

   説教の後半に登場するこのフレーズは、相手の心に届いていないという自覚ゆえに放たれるわけで、問題は説教される側ではなく「する側」にあるのだと続く。

   しかし多くの年少者は、それを指摘する前に「はい、すみません、わかってます」と下を向いてしまう。下手に反論すれば説教が長くなるだけ、と知っているからだ。なにしろ、世の中には「助言に名を借りた命令」が多すぎる。

「年長者は年少者をいつまでも経験不足と決めつけることができる...75歳は100歳にまだまだ若いわね、と言われてしまう。年齢差というのは縮まらないのだから、年齢差を理由にしたアドバイスという名の説教は、基本的に理不尽である」

   ほぼ同じ論旨が、別の言葉で繰り返される。

「自分が経験してきたことを踏まえて、これから経験しようとしている人にアドバイスするというのは、簡単に正当性を持ちやすいので注意が必要である」
  • 上司「えー、知らないの?」部下「……(そんなことでドヤ顔されてもなあ)」
    上司「えー、知らないの?」部下「……(そんなことでドヤ顔されてもなあ)」
  • 上司「えー、知らないの?」部下「……(そんなことでドヤ顔されてもなあ)」

経験は時に暴力的

   「経験って、時に暴力的なのだ」という武田さん。それを示す事例として挙げたのは、タレントりゅうちぇるさんの「タトゥー論争」である。

   彼が自分の両肩に妻子の名を入れたことに、先ごろ、わけ知り顔の批判が相次いだ。曰く「愛する子どもと温泉やプールに行けないよ」「せっかく親になったのに、社会的責任を自覚しているの?」「もっとシッカリしたパパなのかと思っていたのに残念」等々。

   武田さんは「他者が『賛否』を表明すること自体が謎めいているのだが」と突き放したうえで、こう記す。「彼がそう判断したのだから、それでいいのである。それ以外に言うべきことなんて何一つない」。そしてこうダメを押す。

「社会の通例と自分の経験から他者のタトゥーに苦言を呈する人よりも、タトゥーを刻んだ理由を自分の言葉で書き残す彼のほうがあきらかに『シッカリ』している」

   りゅうちぇるさんは、子どもが生まれたらタトゥーを入れようと決めていたそうだ。その人に「親になればわかる」「後悔するよ」といった匿名の「助言」が降り注ぐ。

   「未経験の人に対して、反論する余地が残されていない苦言」を投げつけることに、武田さんは納得がいかない。「あなたのため...」に通じるウソっぽさである。

「経験している人からの苦言に対して、『経験してるだけじゃん』って切り返す勇気を持ちたい...インスタグラムにものすごく長い文章を書いて、経験談爆弾(と今しがた命名)のひとつひとつに対応してみせたりゅうちぇるさんの実直さに打たれた」

冨永格(とみなが・ただし)

コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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