ハウツーを超えて
書店員と結婚し、2歳の子がいる40歳の山崎さん。もともと家事は好きでも得意でもなく、心にシャッターを下ろし、つまり己を無にしてこなしていたそうだ。この苦役をなるべく短時間で済ませられないか、ああ、同じ時間を仕事に使いたい...。
ところがある日、家事では「アイロン担当」の夫が、その最中にいいアイデアを思いついたと知り、「家事をしながらでもプラスの時間を過ごしやがった」と頭にくる。そして、仕事につながらなくても面白いことを考えながら家事をしようと思い立った。今年1月号の連載初回に、そんな説明がある。風変わりなタイトルの由縁でもあろう。
数ある家事の中でも、料理の地位は別格だ。汚れたものを元に戻す掃除や洗濯に比べ、前向きな、足し算的な何かがある。ただの栄養補給を超えて、食べることの悦楽、健康づくりなど、様々な付加価値が皿に乗っているのだろう。作り方を伝授するレシピにも、おのずとハウツーを超えた「遊び」の要素を盛ることができるはずだ。
実際、昨年刊行された「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」(宝島社)は売れたから、レシピ文学という新分野が成り立つかもしれない。
恥ずかしげもなく「趣味は手料理」と公言している私。調味料の案配などは簡単なメモにし、作るたびに更新しているが、それは材料と分量が愛想なく並ぶ「無味乾燥」の代物だ。
この際、読ませるレシピを目ざして「四季のオムレツ」あたりから始めてみようか...より文学的には「オムレツの四季」か。
冨永 格