クラリネットなのに電子音を聴いている錯覚
「ニューヨーク・カウンターポイント」は、ライヒが作った「カウンターポイント」シリーズの3作目にあたります。このシリーズは、ある一つの楽器のみで演奏されますが、奏者と、録音を組み合わせる曲で、1作目はフルートのためにかかれた「ヴァーモント・カウンターポイント」、2作目はエレキギターのためにかかれた「エレクトリック・カウンターポイント」という作品でした。
「ニューヨーク・カウンターポイント」は、全員ライブで演奏しようと思えば、11人のクラリネット奏者で演奏することもできますが、通常は、あらかじめ録音したクラリネットの音に合わせて、その上に、クラリネット奏者が音を重ねてゆく・・・という方法で演奏されます。
全体は3楽章になっていますが、切れ目なく演奏され、一見、同じことの繰り返しのように聞こえますが、続けて聴いていると、だんだんと変化していく要素が聴こえてきます。また、クラリネットという、紛れもないクラシック音楽のアコースティック楽器を使っているのに、ずっと聞いていると、あたかもそれが電子楽器の電子音を聴いているような、不思議な錯覚にも襲われます。
実際に、私はフランスで、録音を使用したオペラ座のクラリネット奏者による演奏を聴いたのですが、目の前で演奏されているとはにわかに信じがたい不思議な感覚に襲われました。それこそが「ミニマルミュージック」の魅力なのです。
摩天楼がひしめく、大都会ニューヨークにあふれる様々な街の音、それを拾っていくと、あたかも都市が持っている音楽が聞こえてきた・・というような体験をすることができる曲です。1984年にクラリネット奏者の委嘱により作曲されたこの曲は、2000年代の今日においては、もう十分「古典」の分野に入る現代音楽ですが、ミニマルミュージックの一つの代表作であり、同時に、難解とされる現代音楽の中でもそのシンプルさと不思議さにより比較的聴きやすい音楽として、大変おすすめの1曲です。
本田聖嗣