人生万歳! なかにし礼さんが一流に課す「過剰なエネルギーの放出」

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   サンデー毎日(9月30日号)の「夢よりもなお狂おしく」で、作詞家で作家のなかにし礼さんが、自身を含む表現者の人生についてしみじみと語っている。一流どころのそれは、言い換えれば「過剰なエネルギーの膨大な放出」であると。

   なかにしさんは、一枚の不思議な絵から書き起こす。メキシコの女性画家、フリーダ・カーロ(1907-54)の「Viva La Vida=スペイン語で人生万歳の意味」である。画面いっぱいにスイカがゴロゴロと転がり、ひとつの赤い切り口に「人生万歳」の文字が刻まれている。

   カーロは幼少期の病気や18歳での交通事故のため、生涯、痛みを抱えながら、時にはベッドの上で創作活動を続けた。自身のつらい体験をもとに、流産を主題としたような作品も多く、肯定的な「人生万歳」はその意味でも異彩を放つ。47歳で亡くなる年の作だ。

   カーロの作品と人生を説明したうえで、筆者は随筆のテーマを掲げる。

「過剰なエネルギーを放出した者だけが、実は〈Viva La Vida!〉と叫ぶ資格があり、その歓喜を実感できるのだと私は確信するものだ」

   なかにしさんが言う過剰なエネルギーとは、生きることに必要な程度を上回るエネルギーのこと。画家も音楽家も作家も、およそ一流の表現者たらんとすれば、あり余る才能を吐き出しながら何十年かを全力疾走する、また疾走すべしということだろう。

「長年、芸術芸能の世界に生きた経験の中で、私が芸術芸能の不思議な力について考えた一つの結論と言ってもいい」
  • 人気作詞家で、物書きとして大成した人は…
    人気作詞家で、物書きとして大成した人は…
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余命宣告から再生

   80歳を迎えた筆者自身、病魔と闘いながら壮絶な晩年を生き抜いてきた。6年前には食道がんで余命半年と宣告されながら、最先端の陽子線療法で「生還」している。病院と医師を4回も変更し、あらゆる方策を吟味してたどり着いた、再びの生だった。

「死神を両肩に背負いながら、死を覚悟しつつ、しかし、なになすこともなく、か細い命を生きていた私が...今またふたたびこの世に誕生したのである」

   医師に「完全奏効」を言い渡されたなかにしさんは、カーロの絵を思い浮かべ、胸中で「人生万歳!」と叫んだそうだ。直後に著した「生きる力」(講談社)の表紙には、迷うことなくこの絵を使った。

   「しかし考えてみれば、私の人生は最初から過剰なエネルギーの放出を求められていた。ソ連軍の満州侵攻で始まった私の人生は、過剰なエネルギーを持った者しか生き延びられないものだった」。数あるヒット曲も、作家への転向も、すべて過剰エネルギーの慣性にゆだねた結果だという。

   今年70歳になった五木ひろしさんから頼まれて書いた「VIVA・LA・VIDA!~生きてるっていいね!」は8月、東京でのコンサートのフィナーレを飾った。3時間を歌いきった五木さんは、疲れも見せずファン800人との握手会に臨んだという。

   なかにしさんは「なんという過剰なエネルギーの放出者だろう。私は志を一にする友を得たような喜びを感じた」と結んでいる。

半世紀を一線で走る

   人気作詞家で、物書きとして大成した人は少なくない。その一人の阿久悠(1937-2007)が、作詞家としてデビューした1960年代後半の思いを回想している。

   「これはなかなか手ごわい、彼に勝つためには、全く違う感性で、全く違う切り口の作品を書かなければ勝負にならないと思った」...歌謡曲の世界に実力で割り込む余地を感じながらも、はるか先を走る同世代を意識していたというのだ。それが、なかにし礼さんだった。

   半世紀を一線で生き抜く作詞家。サン毎の連載では、その時々の話題や著名人との交流を独自の視点で記してきた。上記の回は「人生万歳」をキーワードに、病後の余生になおエネルギーを放ち続ける生きざまを振り返るもので、総論めいた内容だ。

   古今東西の芸術家の名を挙げ、「私のエネルギーなんて極めて小さいものだ」と謙遜してはいるが、一文からは、芸を極めて太く長く生きることへの、厳しい規範意識が立ち上る。

   時代の最前線で疾走する人だけでなく、だらだら生きてきた私などにも、最後に「人生万歳」と小さく叫べる生涯は憧れだ。60を超すと、それはほとんど目標になる。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)

コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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