半世紀を一線で走る
人気作詞家で、物書きとして大成した人は少なくない。その一人の阿久悠(1937-2007)が、作詞家としてデビューした1960年代後半の思いを回想している。
「これはなかなか手ごわい、彼に勝つためには、全く違う感性で、全く違う切り口の作品を書かなければ勝負にならないと思った」...歌謡曲の世界に実力で割り込む余地を感じながらも、はるか先を走る同世代を意識していたというのだ。それが、なかにし礼さんだった。
半世紀を一線で生き抜く作詞家。サン毎の連載では、その時々の話題や著名人との交流を独自の視点で記してきた。上記の回は「人生万歳」をキーワードに、病後の余生になおエネルギーを放ち続ける生きざまを振り返るもので、総論めいた内容だ。
古今東西の芸術家の名を挙げ、「私のエネルギーなんて極めて小さいものだ」と謙遜してはいるが、一文からは、芸を極めて太く長く生きることへの、厳しい規範意識が立ち上る。
時代の最前線で疾走する人だけでなく、だらだら生きてきた私などにも、最後に「人生万歳」と小さく叫べる生涯は憧れだ。60を超すと、それはほとんど目標になる。
冨永 格