クリープハイプ、10代女子に響く
尾崎世界観の「世界」

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「取っておくものより捨ててしまうものに親近感を覚える」

   新作アルバム「泣きたくなるほど嬉しい日々に」は、これまでのアルバムとは違う点がいくつもある。尾崎世界観は筆者の担当しているラジオ番組「NACK5・J-POP TALKIN'」でこんな話をした。

「今回は落ち着いて音楽と向き合えた。手の中に音楽があった。元々ギターバンドがやりたくて音楽を始めたわけですし、前作で色んな穴を掘ってみたとしたら、今回は、やりたい音楽にこだわってやれたという感じです」

   アルバムの中で印象深かったのが二曲目の「今今ここに君とあたし」だった。「むかしむかしあるところに」で始まるおじいさんとおばあさんのお話に対してのアンチテーゼのようなロック。「変な声だと石を投げられている変な世界観のバンドと変な感性を持った村人」が登場する。クリープハイプと聞き手との関係を昔話のように対象化したウィットに富んだお話ソングである。

「やってみたいテーマだったんです。昔々あるところにというあのお話が共感できなくていつもイライラする。いつなんだよ、どこなんだよって突っ込みを入れたくなる(笑)。対極を書きたかったんです」

   アルバムには「赤羽のキャバクラ嬢」が登場する彼らならではの「金魚(とその糞)」もある。同時に「ごみの日」と「記念日」を重ねあわせた「燃えるごみの日」という歌もあった。

「子供の頃から正義の味方よりも悪役に感情移入する方だったんです。普通の人なら最後に勝つヒーローに拍手を送るんでしょうけど、僕は一回きりで切られていなくなってしまう悪役が気になった。ゴミもそうなんです。取っておくものより捨ててしまうものに親近感を覚えるんですね」

   クリープハイプがなぜ思春期の女子に人気があるのか。それは学校でも二枚目でカッコいいヒーローだけが人気者になるのではないことに似ているのかもしれない。思うような恋愛に巡り合えない人に絵にかいたようなラブソングは共感されない。ちょっと拗ねたようないじけ気味な男の子だからこそ分かってくれる。「変な声のバンドと変な感性の村人」が描く現代版バンドおとぎ話。アルバムの最後は「だからなに、うるせーよ」と歌う「ゆっくり行こう」で終わっていた。

   尾崎世界観は、活字の連載も多い。「言葉の使い手」としての評価も高まっている。歌の言葉と活字の言葉。どんな関係にあるのだろうか。

「確かに今回、歌詞の文字量は多いですね。筋力がついているんでしょう。楽に書けるようになってる。僕、他のアーティストのライブを見たりCDを聞いたりとか、音楽で音楽のトレーニングが出来ないんです。映画を見たり落語を聞いたり本を読んだり。文章を書くのもジムでトレーニングするようなものと思ってもらえると嬉しい」

    全部が音楽の道。その答えがこのアルバムだと言った。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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