VERY10月号の「もしかしてVERY失格!?」で、エッセイストの小島慶子さんが、30代女性の友だち付き合い、生き方についてアドバイスしている。
光文社の人気ファッション誌。読者層の中心はおしゃれなアラフォー主婦である。 「学生時代からの友人よりも働き始めてから出会った友人の方が多くなりました」という小島さんは46歳。「友人が劇的に増えたのは、40代になってから。30代は、一番友達が減る時期かもしれません」と書き出す。公私に多くの分かれ道が待ち受ける30代は、男も女も大きく変わりうる。旧来の友人をフルイにかけ合う頃合いかもしれない。
「学生時代の友達も、30代に入るとだんだん暮らしぶりや考え方に違いが出てきます。独身か既婚か、子どもがいるかいないかで生活のサイクルが違うし...」
同じ子持ちでも、保育園か幼稚園か、幼稚園ならお受験コースか否か、友だちの境遇とあれこれ比べて話が合わなくなったり、気まずくなったりする。30代は仕事のキャリアにも差が出るから、実家の支援の有無を含め、子育て環境の違いで溝ができることもあろう。他方、「ママ友社交界」なる新たな付き合いが始まるのも多くはこの時期だ。
「親友に発展することもあるから悪いことばかりじゃないんだけど、中には『...こいつとは同じクラスになっても絶対に仲良くならなかっただろうな!』というタイプもいる」
やがて「60点」に満足し...
「私も30代は育児やら自分の病気(不安障害)やらでてんてこ舞いで、ママ友の群れにも入らず、昔の仲間ともどんどん疎遠になってしまいました...いま思うと30代ってそういう時期なのだと思います...みんなバラバラで、他人が気になって、毎日余裕がなくて、未来も不安で...24時間全方位的に油断ならない戦場なのです、30代の日常は」
小島さんも書くように、VERYからして「バス停やコンビニであっても人目を引くおしゃれなママが良し」といった、高めのハードルを拡散している。
日常に追われ、疲れ果てると、やがて「育児も仕事も60点で上等!」となるそうだ。
「それでも子どもは育つので、持久力のない人は早めに堕落しておきましょう」
小島さんはここで本題を外れ、「お受験」なるものへの過度の意識を戒める。お受験塾が大事にしているのは子どもの将来より、よい子を確保したい学校法人と自分たちの商売ではないか、というわけだ。そして結語である。
「そのうち体力も美貌も仕事も子育ても何一つ思い通りにはいかないことに気がつきます。するとあら不思議。いままで競い合うばかりだった隣人たちと、穏やかな労り合いができるようになるではありませんか...常在戦場の毎日よりもずっとハッピーですよね。気にしいさんには、武装解除の快楽をぜひ知ってほしいです」
元恋人からよき戦友へ
ご存知の通り、小島さんはTBSアナウンサーの出身だ。2010年に退社独立、夫の退職を機に2014年から生活の拠点をオーストラリアに移し、日豪を往復している。高1と中1の息子さんがいらっしゃる。
自身も帰国子女で、局アナを経て海外移住という「特殊性」ゆえ、彼女の生き方指南や子育て論には一般性が乏しい、との見方があるかもしれない。しかし私はこの一篇を、ひとつ下の世代への優しいエールと受け取った。
人生の転機は30代に訪れやすい。どうかすると、大きな異動や転職、結婚、出産などが一度にやってくる。激変のたびに友だち付き合いはシャッフルされ、絞り込まれて40代に引き継がれてゆく。
あれもこれもと頑張る人生の下級生に、小島さんは月並みな励ましではなく「武装解除」の助言を送る。己の武装を解くには勇気がいる。幾多の雑音を跳ね返してくれたヨロイを脱ぎ、反撃に備えて磨いてきた剣を脇に置く。そのうえで、初めて見えてくる世界がある。
小島さんの同業でフジテレビ出身の近藤サトさん(50)は、数年前から白髪染めをやめたそうだ。「若く見られたいと思っていたのが、楽になりました」と朝日紙上で語っていた。若いほど美しいという呪縛からの自己解放、これぞ武装解除である。
小島さんによると、男性も30代で友だちが減るらしい。彼女の結論は「VERY世代は、夫婦が元恋人からよき戦友になるいいチャンスなのかも。健闘を祈ります!」である。
私のようなアラカン世代ともなると、職場の戦友たちは早世で減り続け、増える知り合いは医者ぐらい。武装はとうに脱いでパッパラパーの丸裸、染める前に白髪が抜けていくという毎日だ。40代による30代へのアドバイスは、正直、どれもまぶしいばかりである。
冨永 格