娘の矢沢洋子と「SUGAR DADDY」
矢沢永吉が東京ドームでバースデイコンサートを行ったのは還暦を迎えた2009年9月19日以来。あの時はシークレットゲストに氷室京介とザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトが登場して78年の「黒く塗りつぶせ」を歌って客席を驚かせた。もう一人登場したゲストが娘の矢沢洋子だった。「お父さん、勘弁してよ。矢沢の名前はそれでなくても重いんだから」と断られたと苦笑いしながら、81年発売の全米発売アルバムの中の英語詞曲「SUGAR DADDY」を一緒に歌った。
「あれから9年。みなさんが見たいというんで、ちょっと引っ張り出そうと思います」と言ったのはソロデビューアルバムの中の「雨のハイウェイ」を歌った後だ。下手の袖を見ながら彼女を呼び出して9年前と同じ「SUGAR DADDY」を歌った。今も音楽活動やFM NACK5でのDJをつとめる彼女を心持ち照れたような笑顔で招き、歌う姿を見守る視線はカリスマ・矢沢永吉ではなく父親のそれだった。娘の成長を自分の音楽を聴いてきてくれたみんなに見てもらう。それもバースデイライブならではだった。
それにしても驚異的だったのは彼が全身で発散している熱量の高さだろう。声量や音圧、バンドと一体になって全身から発散されるエネルギーがドームを覆ってゆく。煽り立てるような激しさと絞り出すような狂おしさ。頬や目元に刻まれた皺や陰翳の深さも説得力になってゆく。現役感というのはこういうことだという証明のような3時間だった。
筆者が初めてキャロルを見たのは1972年12月16日。デビュー直前に赤坂のディスコで行われたクリスマスイベントでだ。
コンサート会場は、それぞれの人生を確かめる場。「さっき69になりましたと言ったけど、ほんとにここまで一緒に来たね」という彼の言葉にわが身を振り返ったであろう5万人の中に筆者もいた。
せめて69歳までは元気でいたいよね。だってロックだから。周囲でそんな軽口が交わされるようになったのはこの10年くらいだろう。
70歳の古希ではなく69歳を祝う。
だってロックなんだから。
矢沢永吉にはそんな洒落っ気がよく似合う。
(タケ)