本人が気づいていない魅力をデフォルメ
何度か触れているように参加しているアーティストは元ちとせ以外は、全員が詞も曲も書く。つまり、シンガーソングライターでもある。自分で詞も曲も書く人たちに詞曲を提供する。彼らが自分では書けない、あるいは書かないだろう曲を歌うという意外性という意味でも興味深いアルバムだった。
例えば、山崎まさよしが歌っている「エーゲ海でお茶を」は、タイトルにあるように舞台はエーゲ海、飲んでいるのはミルクティーだ。
8月19日、中野サンプラザで行われたライブ「シンガーとソングライター」に登場した山崎まさよしは「この俺が、バーボンとかウイスキーじゃなくミルクティーだよ」と笑わせながら歌った。彼のブルースハープが、アメリカ南部の土の匂いとは違うやわらかな海風を運んでくるように聞こえた。
どの曲にもそうした「らしさ」とは違う新しい味付けがされている。何しろ、「ひまわりの約束」で茶の間にもブレイクした秦基博の歌う「あぶない部下と危険な上司」は、女性の上司を持つ部下の歌だ。グラマーな外見によからぬことを妄想する部下というユーモラスなオフィスソングは自分では絶対に書かないテーマだろう。杏子の「女神誕生」は、ミロのビーナスを思わせる甘美でエロチックな誘惑的なバラードだ。本人では気づかないその人の潜在的な魅力や新しい一面を引き出してゆく。それが「ソングライター」だという証明のようなアルバムだった。
才能をどう育てるか。思うような成功を手に出来なかったバンドメンバーをソングライターとして開花させる。福耳がそうした場になっていると思わせてくれた。
杏子は「福耳はオーガスタキャンプがあったからここまで来たと思う」と言った。
オーガスタキャンプは99年に山崎まさよしの野外ライブツアーとして行われた。その時のスローガンは「ゴミを出すなよ」。オープニングに登場したのがCOILでアンコールで杏子とスガシカオと一緒に歌ったのが「星のかけらを探しに行こうagain」だった。毎年新しいアーティストがオープングをつとめユニットに加わって行く。そうやって迎えるのが今年、20回目になる。
音楽制作会社はCDを作るだけではなく、才能を育ててゆく。そして、社会にメッセージを発信してゆく集団でもある。
20回目の「オーガスタキャンプ」は、2018年9月23日、富士急ハイランドで行われる。
(タケ)