今年の日本の夏は暑い暑い、といっていたのに、9月も第2週になると気温が急激に低下し、肌寒さを覚えるぐらいになって、急に秋の訪れを感じるようになりました。今日は、肌寒さを感じる秋に、思わず暖かくなってしまう、木管五重奏曲を取り上げましょう。
フランス近代の作曲家、ダリウス・ミヨーの木管五重奏曲「ルネ王の暖炉」です。この曲は、もともと、ジャン・オーランシュとジャン・アヌイ、2人の脚本家が脚本を手掛けたレイモン・ベルナール監督の映画のために1939年に書かれた音楽でした。
お気に入りの「陽がよく当たって、体がぽかぽかする道」
主人公の「ルネ王」とは、正式な名をルネ・ダンジューといい、15世紀に実在したフランス王家の傍系の領主で、フランス南部プロヴァンス地方のエクス=アン・プロヴァンスなどを治めていました。イタリアのナポリの王位を遺言によって継いだこともあるため、フランスでは、「王」ではないのですが、親愛の情を込めて「ルネ王」と呼ばれていました。
エクスや出身地のロワール地方アンジェでは、サロンを主催し、芸術家を保護し、善政を行ったため、人々に親しみを持って「王」とあだ名されたようです。
作曲者ミヨーは、そのエクス=アン・プロヴァンスの出身です。
北部フランスとは全く違う南フランス、プロヴァンス地方は、特に夏季、太陽にあふれています。ピーター・メイルの「南仏プロヴァンス」シリーズで世界的にも有名になったプロヴァンス地方は、冬季は厳しい環境になるものの、ヴァカンスシーズンには世界中から観光客がやってきます。
「ルネ王の暖炉」とは、文字通りの暖炉・・ではなく、そんな日光に恵まれたプロヴァンスの領主である「ルネ王」が、寒がりであった・・という物語を背景としています。彼が寒い時期エクスを散歩するときに、お気に入りの「陽がよく当たって、体がぽかぽかする道」があり、町の人々は、ルネ王お気に入りのその散歩道を、親しみと諧謔(かいぎゃく)を込めて「ルネ王の暖炉」と名付けたのです。
7曲の組曲、すべて演奏しても15分弱
のどかな昔話的物語にミヨーがつけた音楽は、メロディーはわかりやすく、親しみやすいものでありながら、ハーモニーは、20世紀の新しさを感じさせる斬新なものでした。映画音楽から抜き出して7曲の組曲とされた「ルネ王の暖炉」は1曲1曲も短く、すべて演奏しても15分弱の演奏時間であることもあり、近代木管五重奏の中で、もっとも有名な曲となり、同時にミヨーの代表曲ともなったのです。
木管の暖かい音色を聞いていると、なんとも暖かい気分になります。ルネ王が日向ぼっこしている様子を、プロヴァンス出身の暖かな作曲家、ミヨーが、素晴らしい曲にまとめ上げた、寒くなるシーズンに聴きたい1曲です。
本田聖嗣