週刊朝日(8月31日号)「帯津良一の『健脳』養生法 ― 死ぬまでボケない」で、医師の帯津さんがアロマテラピー、すなわち香りによる認知症ケアを解説している。
アロマテラピーとは、植物の芳香成分(エッセンシャルオイル=精油)により心身の不調を和らげ、かつ健康増進を図る自然療法。精油は空中に拡散し、入浴の湯に混ぜるほか、口や鼻から吸い込んだり、体に塗ってマッサージしたりと様々に使われる。 「いずれにしろ、良い香りの中に身を置くことが、心身のリラックスや気分の高揚をもたらすことは想像できます」
認知症には、記憶障害のほか、時間や場所がわからない見当識障害、いつもの動作ができなくなる遂行機能障害などがある。こうした「中核症状」に対し、そこから派生する徘徊、暴力、抑うつ、無気力、妄想、睡眠障害などを「周辺症状」と呼ぶそうだ。
アロマがストレスを和らげたり、寝つきをよくしたりと、認知症の周辺症状に効果的なのは前から知られていた。昨今では、中核症状にも効果ありとする報告も。アルツハイマー病の患者77人に芳香浴をひと月ほど施したところ、見当識に効果が表れたというのだ。
帯津さんによると、アルツハイマー病は脳の「海馬」にたんぱく質の一種、アミロイドβが沈着し、神経細胞を変化させることが原因と考えられている。アロマの刺激は、海馬のある大脳辺縁系に直接伝わり、海馬の神経細胞を再生させるらしい。
においが脳に働きかける
「確かに、匂いは脳に直接的に働きかけているように思いますね。匂いから記憶がよみがえるということがあります。これは、大脳にある嗅覚野に匂いの刺激が伝わると、記憶をつかさどる海馬にもその刺激が届いて、記憶が想起されるのだそうです」
なるほど、ニオイで思い出すことは結構ある。
昭和半ばに生まれた私は当然のように虫捕り少年だった。いまでもスイカを食べると、それをエサに飼育した縁日のカブトムシを思う。火薬の匂いで昭和30年代のおもちゃのピストル(音だけなるやつ)を懐かしみ、蚊取り線香の煙で実家にあった八畳間を思い出す。バターと砂糖が焦げた香りを嗅げば、ブリュッセルの、それも冬の地下鉄が浮かぶ。極めて個人的な話で恐縮だが、においは「記憶のインデックス」のように働くのかもしれない。
「アルツハイマー病の患者さんでは、物忘れなどの症状が出てくる前に、嗅覚の衰えに気づくことがあるといいます。ということは、逆に匂いによって脳を刺激して、嗅覚を衰えさせないようにすれば、認知症の予防につながるのではないでしょうか」
五感の刺激で生命力が
おじさん週刊誌、おばさん週刊誌ともに、健康コラムの潜在ニーズは高い。連載筆者の多くは医師で、中には鎌田實さんのように「人生総合アドバイザー」というか、人気エッセイスト、コメンテーターとして独り立ちしている才能もある。
がんや心疾患、脳疾患と並んで中高年が心配なのは認知症だろう。帯津医師の連載はピンポイントで「ボケ予防」をテーマにしており、肥満や睡眠と認知症の関係、音楽療法などを取り上げてきた。「予備軍」である私たち世代の関心に、正面から応える内容である。
匂いが認知症の予防だけでなく治療にも役立つという説は、びっくりするような話ではないが、専門用語を交えてのコラムには説得力がある。どの行も「ありがたい」ご託宣なのだ。嗅覚への刺激がいいと知り、開いた週刊朝日のインクのにおいを嗅いだ読者がいたかもしれない。
帯津さんは「五感を刺激すれば生命力が向上する」という。嗅覚に限らず、映画でも音楽でも美食でも、各種のスキンシップでも、あらゆる刺激がボケ予防となる。おじさん週刊誌が、熟年セックスの奥義をほぼ定番化している理由もコレだろうか。
冨永 格