今年2018年は太平洋での台風発生件数が多く、日本列島にもいつもより多くの台風がやってきます。猛暑とともに、台風の多かった1年として記憶されることになりそうです。
今週取り上げる曲は、その名も「海の嵐」という愛称がつけられた曲です。激しく恐ろしい様子がうかがえますが、実際の曲は、華麗なるイタリアン・バロックを感じることができるヴァイオリン協奏曲です。
音楽の需要が旺盛だったヴェネツィア
作曲したのは、ヴェネツィアに生まれ、ヴェネツィアで活躍したアントニオ・ヴィヴァルディです。司祭として、ヴァイオリン奏者として、教育者として働きながら、オペラ、宗教音楽、器楽曲、とたくさんの作品を残しました。器楽曲の中でも有名なものが「協奏曲」と言われるスタイルのもので、ヴァイオリンやフルートなど・・・当時はまだピアノが発明されて間もなく、「一人前」の楽器ではなかったためピアノは残念ながらありません・・・の独奏楽器を弦楽中心のアンサンブルが華麗に伴奏するイタリアン・バロックに特徴的な形式の曲を大変たくさん残しました。これは、北イタリアのヴェネツィアはクレモナなど弦楽器の生産地に近い環境にあり、かつ財力があり繁栄していたヴェネツィアでは、音楽の需要が旺盛だったこと、などの理由が挙げられるでしょう。
町全体が「海の上」で、交易で生きていくしかなかったヴェネツィアの人々にとって、何より海は生命線であり、パートナーでした。しかし、時にアドリア海は厳しい表情を見せ、高潮でヴェネツィア全体が冠水したり、嵐のような天候で、重要な交易船の航行がままならない、ということもしばしばありました。
代表作「四季」の「お隣」
40歳代中頃のヴィヴァルディは円熟期を迎え、書き慣れたヴァイオリン協奏曲のスタイルで12曲を完成し、「和声と創意の試み」という名を付けた曲集として出版します。
その5曲目が「海の嵐」と名付けられました。悲劇的な様子は全くなく、どちらかというと快活な雰囲気で始まる曲ですが、海に慣れたヴェネツィア人、ヴィヴァルディにとっては、華麗な旋律が独奏楽器と弦楽合奏団でやり取りされる様子を「嵐」にたとえたのかもしれません。
ちなみに「和声と創意の試み」の第1曲目から第4曲目には「春」「夏」「秋」「冬」と名付けられ、まとめて「四季」と呼ばれて、ヴィヴァルディの最も有名な作品となっています。「海の嵐」は、そのお隣の第5曲です。同じく彼の華麗なイタリアン・コンチェルトの世界が味わえますので、「四季」がお好きな方も、ぜひ聴いてみてください。
本田聖嗣