本物の加山雄三が登場
TUBEの横浜スタジアムの一回目は1988年。昭和最後の夏だ。今年は平成最後の夏。ヴォーカルの前田亘輝は「みんなが平成最後とか30回目とかいろいろ言うんで今までで一番緊張している」と言った。
平成生まれの新しい波。今年が発足25周年というサッカーのJ・リーグもその一つだろう。93年のオープニングセレモニーのために春畑道哉が書き下ろしたのが「J'S THEME(Jのテーマ)」。8月22日にその25年バージョンが発売になった。客席の応援の歓声が織り込まれた劇的な構成は、この日も観客の一体感を増していた。
画面にはJ・リーグの名選手の名シーンが映し出され、ステージにフラッグが登場する。音楽とスポーツ。ともに生の迫力に勝るものはない。
前田亘輝が「いつもより緊張している」と言ったのは、これもあったのではないかと思わせたのが、予想もしていなかったゲストの登場だった。
普段日の当たらない楽器であるベースに注目してもらおうと、海辺の4人が全員ベースで加山雄三の「海、その愛」を演奏するという微笑ましい映像が流れた後に、何と本人の加山雄三が登場した。元祖・海の男。湘南の巨人も加わった「海、その愛」の3万人の大合唱には昭和も平成もなかった。加山雄三が14歳の時に初めて作った曲という「夜空の星」をメンバー全員が加山雄三のおなじみのギター・モズライトを使って弾く。全員ベースと全員ギター。デビュー33年。気心が知れたバンドの証しのようなシーンだった。
夏の始まりと終わりに思う事――。
若い頃は、今年はどんな恋に出会えるだろう、だったりする。どんな異性と言ってもいい。思うような出会いがある年も何もなく終わってしまう年もある。来年こそと思いつつ秋を迎える。
時が経ち、生活も変わり、夏の過ごし方も変わってくる。自分のことだけではなく家族との思い出が大事になることもある。
そして、あの頃、一緒に遊んだ友人や知人の訃報を聞くようにもなる。それでも、あの夏の日の思い出に帰って行く。
本編最後もアンコールもそんな「恋する夏」の歌だ。スタジアム上空を覆ったジェット風船はそれぞれのささやかな打ち上げ花火のように心の中に残って行くだろう。
前田亘輝が「やっぱりこの曲がないと」と「あー夏休み」を歌ったのは二度目のアンコールでだった。
葦簀張りの海の家、浴衣に花火、蚊帳と鈴虫、どれも切ないほど「日本の夏」だ。台風と猛暑に明け暮れた平成最後の夏をそんな風に牧歌的に過ごせた人がどのくらいいるだろうか。「日本の夏」はTUBEの歌の中で生き続ける。
春畑道哉は事前のインタビューで「30回もやるなんて思ってもいなかった。毎年、今年だけなのかなと思ってやってきた気がする」と言った。
去年は雷雨に見舞われ、1時間あまり中断せざるを得なくなった。彼は「みんな帰ってしまったかなと思ったら待っていてくれて、本当にうれしかった」と言った。それは普段は21時以降に音を出せないという球場の理解があってこそだ。
平成最後の8月が終わる。
来年は新しい年号のもとで行われることになるのだろう。夏の野外ライブが出来なくなる日が来ることのないように祈るばかりだ。
(タケ)