完璧に夏に特化した選曲
そして、何よりも曲がある――。
一曲目の「夏だね」から予定外のアンコール曲「ゆずれない夏」まで28曲。どれも夏だ。全編が夏と海。これだけ完璧に夏に特化した選曲は彼らにしか出来ないだろう。
それでいて歌われている夏は客席の年齢層そのままにいくつもの表情を見せていた。
夏休みを迎える前のときめきを歌った「夏だね」や「Let's go to the sea」の誰もが思い当たる夏の恋の期待、そして水平線そのもののようにのびやかな「Beach Time」。「一回目のオープニングの曲、覚えてる?俺は忘れてたけど」という前振りでの「夕方チャンス到来」、そして、85年のデビュー曲「シーズン・イン・ザ・サン」。あいさつ代わりのような初期の曲は2008年の「オラシオン~君に恋した夏~」から去年の「My sunny day」と続いてゆく。
33年のキャリアを遡るようであり、その中で少しずつ変わってゆく「夏と海」の物語。センターステージに移ってからは、更にそんな曲が用意されていた。
TUBEの中での「夏と海」が変わってきたと印象深かったのは2009年のアルバム「Blue Splash」だった。大人になってから思う「夏と海」。シングルになった「SUMMER GREETING」は、普段は会う事もなくなってしまった友人から届いたカードが題材だった。海の写真に添えた「元気かい」という一言が思い起こさせる遠い波の音や潮の匂いと青春の日々。TUBE自身がそういう年齢に差し掛かり、彼らが作り出す音楽がそういう役割を果たすようになったように思えた。
前田亘輝、春畑道哉、角野秀行、松本玲二がセンターステージに並んでいる。エレキの代わりにアコースティックギター、ドラムの代わりにアメリカのジャグバンドが使うウォッシュボード。「SUMMER GREETING」に始まり、「その辺、酒臭いぞ」と最前列の客席を冷やかしながら歌われるバラードコーナー。仕事も始め、都会暮らしに慣れてしまった。あの日々は戻らないと知ってしまったからこそ分かる夏の愛おしさ。今年の新曲「潮風の中で」や2015年の「海のバラード」。心の中を海風が吹き抜けてゆくようなメロディーは若い頃には書けなかっただろう。
そんなしみじみしたコーナーの締めくくりが、自分たちの音楽を季節を越えて人生を照らす光に託した「灯台」だった。