小さなモチーフを連続して繰り返し展開
日本にも風呂敷などに使われる「唐草模様」や、寄せ木細工などにみられる連続した幾何学模様など、いくつも見られますが、それらの「連続するモチーフ」をクラシック音楽に取り入れたのが、ロマン派の作曲家、ロベルト・シューマンです。
この曲は彼が29歳の時に作曲されました。クララと結婚する1年前、若手作曲家・評論家として、頭角を現しつつあった頃の作品です。彼が活躍したロマン派の時代は、それまでの古典派時代から存在した、ソナタやロンドなどの伝統的な曲の形式から自由になり、「ラプソディ」「即興曲」「夜想曲(ノクターン)」等、特にピアノソロの曲で、新しい、形式が創造された時代でした。
その中にあって、シューマンは、「アラベスク」を創り出したのです。ある小さなモチーフを連続して繰り返し、それをだんだん展開してゆく...という作曲手法は、すでにベートーヴェンなどが得意とするところで、例えば「第5番交響曲『運命』」や、ピアノソナタ第17番『テンペスト』」なども、近似の手法で描かれているのですが、シューマンは、モチーフの繰り返しをある程度長く連続させ、あたかも「アラベスク模様」を目の前に見ているような曲を作り上げ、「アラベスク」と命名したのです。
シューマン以後も、ドビュッシーなどが「アラベスク」という曲を作ることによって、「アラベスク」は一般化しましたが、その最初の作品が、シューマンの創造した「音楽の唐草模様」こと、「アラベスク」だったのです。
本田聖嗣