今日は、シューマンのピアノの曲、「アラベスク」を取り上げましょう。演奏時間6分ほどの、性格小品といわれる独立した単独曲です。
イスラム芸術のすばらしさ伝える幾何学模様
キリスト教文明圏のヨーロッパの人たちにとって、「アラビア」というのは特別な響きがありました。もちろん、アラビア、すなわちイスラム教圏は異宗教として対立の歴史もありましたが、もともと異宗教にも寛容な宗教でもあるイスラム教は、中世の時代学問が栄え、ヨーロッパにルネッサンスをもたらしてくれるきかっけとなったのです。ギリシャ・ローマすなわち、キリスト教化以前のヨーロッパの文化や文典をもたらしてくれたのも彼らで、神学の圧倒的な優勢のもとに科学の発展も遅れていたヨーロッパは、学ぶところが多かったのです。
そんなイスラム教は偶像崇拝を禁じているので、礼拝の場であるモスクにも、聖像やイコンなどはありません。しかし、モスクの内部の壁面には、見事な「アラベスク模様」がある場合が多く、イスラム美術の神髄を伝えてくれます。多くの場合は、反復する幾何学模様が描かれていることが多く、大規模なアラベスク模様を眼前に見ていると、永久に続くかのように思われます。神の創造した永遠、を表しているこれらの文様は、おそらく、ギリシャ・ローマの幾何学の成果も取り入れた広大なイスラム文化圏の創造で、異教徒や文化の異なる人間にとっても、イスラム芸術のすばらしさを伝えてくれます。