東北に多い経営者たちは九州や大阪から来た
静脈産業と在日韓国人。調べてみると、そうしたテーマの本そのものがない。
さらに詳細な調査を進めるために、公益財団法人韓昌祐・哲文化財団の助成を受け、在日韓国人(日本国籍を取得した人をふくめ)が経営する全国各地の大手リサイクル業者6社~8社を訪ね、現地調査とインタビューを行う計画だ。
助成事業としては、既存の先行研究、日韓におけるスクラップ貿易統計、業界新聞記事データベースなどの資料収集、また各企業の先代の自叙伝の収集と整理も行いながら、静脈産業における在日韓国人の過去・現在・未来を展望する試みだ。
また、2000年以降に再生された鉄、非鉄金属の製品の主な輸出先になっている韓国の大手メーカーにも調査を行い、日本からの鉄スクラップの供給の特徴や問題点、今後の方向性を分析する予定だ。
これらの研究成果は日韓の関連学会、シンポジウムなどで積極的に公開し、2020年3月をめどに書籍を出版したいと考えている。
それにしてもなぜ、東北の静脈産業の経営者に在日韓国人が多いのか。劉庭秀教授によると、もともと大阪や九州にいた人たちなのだという。
戦前の朝鮮人は出稼ぎの作業員として日本に渡航し、家族を呼び寄せて増えていった。その後、1944年の国民徴用令で強制的に工場などに動員された人々がいた。
敗戦後、町の至るところに戦災による屑鉄(くずてつ)が放置され、屑鉄回収は手っ取り早い商売になった。生き延びるために在日韓国人の約10%が、「古物屑鉄商」についたといわれる。
現在も、全国各地に在日韓国人が経営している大手スクラップ(総合リサイクル)業者が多く見られるのはそのせいだ。
戦時中、徴用で強制的に九州の炭鉱で働かされていた在日韓国人の一部が、労働環境の過酷さに耐えかねて逃げ出し、北へ北へと逃れて東北地方で「古物屑鉄商」を始め、それが発展して、今につながったと見る。