空軍に志願するも戦場には飛び立たず
それにしても、ラヴェルはなぜ「鳥」を主人公にしたのでしょうか?
実は、弟をはじめ、周囲の親しい人たちが続々と徴兵され、戦場に送り込まれた後、ラヴェルがいてもたってもいられず志願したのは、空軍だったのです。知り合いの政治家のコネを使ってまで、そして、自分の軽くて貧弱な体形を自覚していたラヴェルは、世界最初の空軍であるフランス空軍に入隊しようとあの手この手を尽くしたのでした。
陸軍の歩兵、騎兵、砲兵、工兵の諸兵科に追加する形で、下院議会の議決を受けて航空隊が正式に発足したのは、1912年のことでした。148機の作戦機と15機の気球をもって第1次大戦に突入した空軍は、1918年11月の休戦までに3608機の機体を投入することになりました。4年間で5500人もの操縦士・偵察員が命を落とし、その死亡率は全体の31%にも達したのです。
結果的には、運転手として配属され、戦場の空には飛び立つことのなかったラヴェルですが、戦地に赴く前に残した「楽園の三羽の美しい鳥」は、今でも、彼の戦争という理不尽なものに対しての、やるせない気持ちを伝えてくれます。
フランス語で「パラディ Paradis」は、「楽園」とも「天国」とも訳せます。
本田聖嗣