「赤い鳥」が意味したものは
戦場から戻ってきて、まだ戦闘が続く中、1915年から1916年にかけて、ラヴェルは合唱のための「3つの歌」を完成させます。その2曲目が「楽園の三羽の美しい鳥」です。歌曲において、通常、作曲家ラヴェルは作曲に専念し、歌詞は他の詩人のものを使うことがほとんどですが、ごくわずかですが、作詞も彼自身という作品があります。それだけ、思い入れが激しい作品ということになると思いますが、この「3つの歌」もラヴェルの作詞なのです。
諧謔(かいぎゃく)的かつ、おとぎ話のような1、3曲目に対し、1914年初めには完成していた2曲目は美しくも悲しい歌詞を持っています。
楽園の三羽の美しい鳥
(私の恋人は戦場にいる)
楽園の三羽の美しい鳥は、
ここを通って行った
一羽目は空よりも青く
(私の恋人は戦場にいる)
二羽目は雪の色
三羽目は鮮やかな赤
三羽の鳥が、それぞれ、青、白、赤である、というのは、紛れもなくフランス国旗の色を表していると思われます。歌い手=主人公の恋人は、第一次大戦の戦場にいるようですが、それがどんな人かは、一切説明がありません。
歌は進み、主人公は、三色の鳥が何を運んでくれるの?と問いかけ、最後に、赤い色の鳥の順番が回ってきます。
楽園の赤い鳥
(私の恋人は戦場にいる)
楽園の赤い鳥
あなたは何を運んでくるの?
美しく、深紅の色の心臓です
(あなたの恋人は戦場にいる)
ああ!私の心臓が凍り付いてゆくのを感じる
これも一緒に持って行って
最後の段落だけ、私の恋人、があなたの恋人、に代わっていたり、それまで戦場、という単語は出ていても、一見美しい鳥たちの歌のように聞こえていた曲ですが、「心臓」という単語が登場する最後の段落あたりから、ただならぬ内容であることがわかります。
しかし、あくまでも美しく、悲しげなメロディーに乗って、この歌は最後まで歌われます。