スマホにもない答え 宮藤官九郎さんは中1の娘に「だから面白いのだ」

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   週刊文春(8月2日号)の「いま なんつった?」で、脚本家の宮藤官九郎さんが、ませた子どもの「美女談義」から書き起こしている。

「僕のクラスには美女がいない」「○○ちゃんは?」「あれは美女かなあ」「△△ちゃん」「ぜんぜん美女じゃない」「□□先生は?」「お前、美女の意味、分かってねえな」

   振り返り、速度を落として会話に聞き入る宮藤さん。登校中の男子小学生で、ランドセルの「大きさ」からして低学年らしい2人だった。

   宮藤さんの生きがいは早朝のジョギングと夕方の銭湯。ジョグでは熱中症を警戒して自販機で飲料を買い、公園の水道で顔を洗い、木陰で涼んでまた走り出す。その耳に飛び込んできた、子どもの「衝撃的なフレーズ」である。

「覚えたばかりの『美女』という言葉を使いたくて仕方ないのだろう。なおかつ彼の中でもその定義は不確かなようで『もういい』と話題を変えてしまった」

   脚本家は「僕が子供の頃だったら」と想像をめぐらせる。学校から帰って母か姉に「美女」の意味を尋ね、ひとしきり笑われ、辞書で調べて「美しい女性」という言葉にぶつかる。そして「悶々とした気持ちになり『美女』が頭から離れなくなる」と。

  • 幼いころからスマホを使う子たち
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一瞬で解決した気に

   宮藤さんは48歳。小学生時代、テレビにミニスカのピンク・レディーが出ると、パンツが見えるかもしれないと画面を下からのぞき込んだ。それほど「美女」に飢えていたそうだ。病院や床屋の週刊誌で水沢アキや五月みどりのグラビアを穴が開くほど見つめ、「違う、これは熟女だ!」と叫びもした。

   いまの小学生は「美女」の意味を誰かに聞く前に、母親のスマホやタブレットでこっそり調べることができる。一瞬で問題を解決したうえ大量の画像に触れられる今の子と、想像力を働かせて悶々としたわが世代、「果たしてどっちが幸せなんだ?」と宮藤さんは自問する。

   仕事関係の会食だろうか、酔ったプロデューサーが声を張り上げたという。

「この世に、分からないものなんか、もうないって、思ってるんですよ、最近の若い連中は! だから理解できないものは受けつけないんです」

   宮藤さんもほぼ同じ意見らしい。

「子供達、世の中にはまだまだ解明されてない謎、理解の及ばない世界、何にも似てない表現がある。それらを『分からない』のひと言で排除するのはもったいないぞ」

   最後は、宮藤脚本で公開中の映画「パンク侍、斬られて候」である。中1の娘さんに作品を見せたら「ねえ、なんで猿が喋り出したの?」と、質問攻めにされたそうだ。

「その答えはスマホには無い...お父さんにも分からない。だから面白いんじゃないか?」

安易なあきらめの壁

   脚本家がシナリオを書き、コラムニストが気の利いた話を書くには、それなりの下調べが要る。学者が論文を書くならなおさらだ。プロの場合、最終的に図書館や百科事典、自分の資料集を頼りにするのだが、いつの頃からか「とりあえずインターネット」という行動パターンが身についた。

   ある言葉の検索結果を手がかりに、ほぼ無限大の情報の海から使えそうなものを拾ってくる。これでアタリをつけて、参照すべき原資料を絞り込む。この作業によって、下調べの効率はかなり上がる。アマチュアの随筆なら、ネット情報だけで十分かもしれない。

   ところが、お手軽な調べものに慣れると、スマホ「でも」分からないならおしまい、となりがちだ。自ら「あきらめの壁」をネットの中に築いてしまう。

   さて「理解できないものは受けつけない」世代に、「分からないから面白い」というクドカン流は通じるのだろうか。「パンク侍」の評判や興行成績が気になり始めた。調べてみるか、とりあえずネットで。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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