回転すしチェーン大手のくら寿司が、「原点」にメスを入れた。1977年の創業以降、同じ寿司酢を使い続けてきたが、18年7月から黒酢に変えたのだ。
これまでの酢は創業者の並々ならぬこだわりが詰まっており、レシピは門外不出とされていた。しかし今回、「伝統」を捨てるという大きな決断に踏み切った。背景には何があったのか、取材した。
転機は健康ブーム、「糖質オフシリーズ」に反響
「米の水量やブレンドを変えることはありましたが、お酢を変えるのは初めてです」
くら寿司を運営するくらコーポレーションの広報担当はこう話す。
同社が使用する酢は、創業者である田中邦彦社長の「見えないところこそ大事にしたい」との理念が反映されている。
創業時に添加物なしの酢を探し求める中で、田中社長は「祖母がよく作ってくれた」という岡山県の郷土料理「祭りずし」を思い出した。酢に砂糖やダシを合わせた自家製の寿司酢で、酢飯を作っていた。
そのレシピを参考に、くら寿司独自の酢を開発。以降、国内自社工場で独自の製法で作られてきた。レシピは一部の社員しか知らず、「門外不出」だ。
だが、さらなる味の向上に向けて、10年前からより良い寿司酢の開発を始めた。果実酢や赤酢など、国内外のあらゆる酢を試したが、大きな決め手が見つからなかった。
転機となったのは、17年8月に発売した「糖質オフシリーズ」だ。健康志向が高い消費者をターゲットに、シャリを野菜に置きかえたメニューなどを売り出し、「思った以上に反響があった」(前出の広報担当)。
健康意識の高まりを受け、体に良いとされる黒酢に着目。コメに合うよう3種類の黒酢を合わせ、ついに満足できる酢にたどり着いた。