「おいしい=しあわせ」?
おいしいことが幸福感につながる人間の感性。これがはたして動物にあるのかないのか。食いしん坊の私としては、声を大にして「ない!」と言いたい。子孫繁栄を旨とする動物の食性は質より量が基本だし、次の生殖行為まで生き延びるための栄養補給だろう。
しかし、角田さんの思考はそこで止まらず、家族としての猫に自らの美食を詫びている。詫びただけでは気がすまず、いなばペットフード株式会社(本社・静岡市)のごちそうを与えるのである。日ごろの飽食の罪滅ぼしとして。
ここで私は、野生から人間社会に歩み寄り、あるいは引き込まれ、両者の境界で生きているペットという存在に思いを致す。門前の小僧なんとやらの例えがあるように、かれらの味覚の一部には「グルメっぽい何か」が入り込んでいるかもしれないと。入り込むとすれば、ワンコより、すまし顔のニャンコが怪しい(※個人の感想です)。
秋元康さんに『世の中にこんな旨いものがあったのか?』という、いささかむかつくタイトルの著書(2002年、扶桑社)がある。そのあとがきに、執筆理由が記されている。
〈おいしいものを初めて食べた時の感動を、もう一度味わいたかったからである〉
めでたく「ちゅ~る」を経験した全国の飼い猫たちは、朝晩の寄り合いなどで「初めて食べた時の感動」を語り合っているかもしれない。
冨永 格