「おいしさ」とは何か 角田光代さんは愛猫に罪滅ぼしの「ちゅ~る」を

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「おいしい=しあわせ」?

   おいしいことが幸福感につながる人間の感性。これがはたして動物にあるのかないのか。食いしん坊の私としては、声を大にして「ない!」と言いたい。子孫繁栄を旨とする動物の食性は質より量が基本だし、次の生殖行為まで生き延びるための栄養補給だろう。

   しかし、角田さんの思考はそこで止まらず、家族としての猫に自らの美食を詫びている。詫びただけでは気がすまず、いなばペットフード株式会社(本社・静岡市)のごちそうを与えるのである。日ごろの飽食の罪滅ぼしとして。

   ここで私は、野生から人間社会に歩み寄り、あるいは引き込まれ、両者の境界で生きているペットという存在に思いを致す。門前の小僧なんとやらの例えがあるように、かれらの味覚の一部には「グルメっぽい何か」が入り込んでいるかもしれないと。入り込むとすれば、ワンコより、すまし顔のニャンコが怪しい(※個人の感想です)。

   秋元康さんに『世の中にこんな旨いものがあったのか?』という、いささかむかつくタイトルの著書(2002年、扶桑社)がある。そのあとがきに、執筆理由が記されている。

〈おいしいものを初めて食べた時の感動を、もう一度味わいたかったからである〉

   めでたく「ちゅ~る」を経験した全国の飼い猫たちは、朝晩の寄り合いなどで「初めて食べた時の感動」を語り合っているかもしれない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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