締めのお決まり「人間なんて」を拒む
「人間なんて」は、71年のアルバム「人間なんて」に収録されている。広島から上京してきて自分の居場所を見つけられない若者の半ばやけっぱちのような解放感。彼は「この年で客があの歌を合唱するのはおぞましくないか」「俺は今、これと闘ってるんだ」「もし客が『人間なんて』を聞きたいと思ったら俺の負けだ」というのが彼の主張だった。
過去を振り返らない。自分の現在であり続ける。そして人生を肯定する。彼が最終的に選んだ最後の曲は2003年の新曲「聖なる場所に祝福を」だった。若い時にはできなかったこと。彼は終始穏やかな笑顔を浮かべていた。「つま恋」は、音楽ファンにとって聖なる場所になった。
8月29日、彼の4年ぶりのアルバム「From T」が発売になる。去年から始めているニッポン放送の「吉田拓郎ラジオでナイト」の中のコーナー「MY BEST テイク」で世間の評価とは別に自分のお気に入りの曲を取り上げる中で選んだ「思い入れのある曲」「もう一度聞いてほしい曲」27曲三枚組。「こういうアルバムを出すのが夢だった」というアルバムには、門外不出のデモテープ15曲もついている。しかも、自分の作品を語ることをしてこなかった彼の自筆の全曲ライナーノーツも読める。でも、収録曲は発売まで明かされない。
一昨年、古希を迎えた音楽人生のしめくくり。番組の中では73歳でのツアーも公言している。1973年に行われたライブアルバム「LIVE 73」とは別の意味の「LIVE73」がどんなツアーになるのか。
もう「つま恋」も「野外」もないのだと思う。
「拓郎伝説」の最終章が始まっている。
(タケ)