日本社会で抱いた違和感
その後、海運会社に就職。3年半の勤務を経て多摩美術大学映像演劇学科に入学。そこで出会った映画監督の青山真治に師事し、初めて制作したのが映画『ふざけるんじゃねえよ』だった。
「自分が抱く違和感や問題意識から出発するものを作ろうと思ったとき、『在日』をテーマにしてみたいと思いました。メディアで報道される図式は『在日=ネガティブ』と良くないイメージで扱われがちだけど、少なくとも自分の周りにいる在日コリアンは違う。むしろ日本人よりも日本人らしいところもあるし、人間としてずっと温かかった。そうしたギャップも含めて、"この人たちって何なんだろう?"と考えていました」
実はこの作品で主役に起用したのは、明学時代から親しく付き合ってきた先輩だ。彼は在日コリアン3世で、家にも良く遊びに行っていた。映画作りに向けて、実際にいろいろ話を聞くと、本人は在日として虐(しいた)げられた体験はあまりなく、特に意識することもないけれど、やはり就職や結婚に際しては横のつながりが未だに発揮されるという。
清水はあえて「在日が嫌いな在日」をテーマに描くことで、世代間のギャップやそこで生じる新たな歪みも浮かびあがらせる。日本に生まれ、日本人と同じような生活をしていても、結局は「異質」であることを認識せざる得ない主人公の葛藤。それは清水もまた日本社会で抱いてきた違和感と重なる。
清水は、帰国子女と思われることがすごく嫌だったという。
「フランス帰りというだけで良くも悪くもクスクス笑われることがあって、中学高校のときは帰国子女であることをなるべく隠すようにしていた。僕自身そうだったように、帰国子女の傾向として子どもの頃はあまり協調性がなく、アメリカではこうだった、イングランドでは......とすぐに日本と比べてしまう。だから、自分の育った国や国籍の問題について敏感に感じることがあったのかもしれませんね」
この作品でデビューを果たした清水は、2014年に東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻に入学。脚本家の筒井ともみ教授に師事して本格的に脚本を書き始め、現在は教育研究助手として大ヒット作『東京ラブストーリー』の坂元裕二教授とともに脚本ゼミで指導にあたっている。そんな清水が、新たに手がける作品のテーマをこう語る。
「やはり何かに追い詰められている人たちを描きたい。それは『在日嫌いの在日』というテーマのもとで、さらには『外国人』という大きなフレームで現代の日本を捉えられたらと。これまでは日本人と在日コリアンという構図があったけれど、今はその下にもう一つ『外国籍』で生きる人たちがいることを考えなければいけないと感じています。あえて乱暴な言い方をすれば、かつて日本人と在日の間にあったわかりやすい差別は薄れているとしても、新たに増えている他の外国人とどう関わっていくか、日本でも広がりゆく『外国籍』の問題も踏まえて、リアルに描き出せたらと思っています」
「映画」とは国籍や民族の壁を越えて、人間の心に響くものであり、今や日本映画界を背負う監督たちの活躍がめざましい。清水自身も映画の力を信じて、世界に羽ばたけるような監督になるべく挑もうとしている。
清水俊平にとって、初の長編作品へのチャレンジである。
(ノンフィクションライター・歌代幸子)