戦争は地元民も分断する
戦争末期、中野学校出身者は沖縄に爪痕を残した。40人ほどが本島や離島に派遣され、子供をゲリラ兵士に仕立てた「護郷隊」を作るなどかなり強引なことをやったのだ。その実態の一端は2015年、NHKスペシャルが「あの日、僕らは戦場で~少年兵の告白~」という「護郷隊」を主人公とした番組を放映したことで知られるようになる。NHKスペシャル取材班は16年に『僕は少年ゲリラ兵だった――陸軍中野学校が作った沖縄秘密部隊』(新潮社)という単行本を出しており、その取材に協力した名護市の市史編さん係嘱託職員の川満彰さんも18年になって『陸軍中野学校と沖縄戦』(吉川弘文館)を出版している。J-CASTのBOOKウォッチでは両書とも紹介済みだ。
映画はそれらと重なる部分もあるが、大画面の迫力は強烈だ。しかも、両書以上に踏み込んだところも多い。一つは八重山諸島におけるマラリア被害。とりわけ波照間島では、中野学校出身者による命令で、住民が西表島のマラリア多発地域に移住させられ、そこで当時の島民の3分の1近い約500人が亡くなった。映画の中では、この強制移住を命じた中野学校出身者に戦後、沖縄戦の研究者が電話取材した録音テープが紹介されている。まったく罪の意識がない話しぶりに唖然とする。
もうひとつは「国士隊」についての部分だ。土地の有力者たちを巻き込んだ住民監視組織だ。「スパイ」の疑いがある住民を密告し、軍による処刑に協力する形となった。小さな村では、誰の密告で誰が殺されたか分かっている。しかし村民は今も当事者の実名について口をつぐむ。
沖縄戦では、民間人も戦争に動員され、壮絶な地上戦で多くの犠牲者を出した。混乱の中で日本軍に殺された住民もいた、ということも知られている。しかし、そこに住民自身も関与していたという事実は重い。戦争は地元民も分断する。そして傷を残す。おそらくは中国や朝鮮半島でも似たようなことが起きていたのだろうと、想像してしまう。
ノンフィクション作家の豊田正義さんは、近刊の『ベニヤ舟の特攻兵』(角川新書)の中で「強大な国家権力は、その気になれば国民を洗脳し、いつのまにか、とんでもなく悲惨な任務を与える。そして、まるで虫けらのごとくその命を国家のために消耗させる」と強調しているが、全くその通りだと思った。国家権力に翻弄された国民の傷は「73年たっても癒えない」(三上さん)ということがこの映画からひしひしと伝わる。
作品の全国上映のスケジュールはHPで確認できる。