「スーパーマンになれる薬」
鍋島氏が薬物依存に関わりはじめたのは1978年、米国に留学したときである。当時、薬物乱用が米国で大きな社会問題になっていた。その薬の名はフェンサイクリジン。
「もともとは、1950年代に麻酔薬として開発されました。ただ、麻酔から覚めたときに、患者さんの3割が幻覚を経験しました。また暴力を振るうといった副作用もあったので、人には許可されませんでした」
ところが動物の麻酔用には許可されたため、違法に入手する輩(やから)が続出した。たとえば幻覚を期待する者、あるいは痛みを感じないので、「スーパーマンになれる薬」とも言われたことから、素手でガラスを割ったり、ビルから飛び降りたりする人が出た。
なぜ、こうしたことが起きるのか。鍋島氏は研究を始めた。
薬を使うと三つの特徴があらわれた。部屋の中をぐるぐる回ったり、顔を何度も洗ったりする「陽性症状」、逆に何もやる気が起きず、社会性のある行動ができない「陰性症状」、さらには記憶・学習に支障をきたす「認知障害」だった。