「最後の曲はYTの人生」
GOSPELS OF JUDASのデビューアルバム「IF」は予想とはかなり違っていた。デジタルな実験的アルバムという先入観はすぐに覆された。全体がギターサウンドを軸に、一つのテーマに沿ったストーリーになっている。端的に言ってしまえば「世界の滅亡と救済」だろう。「ノアの箱舟」や「スターウォーズ」であり「銀河鉄道999」のようなSF的ファンタジー。もし、世界がこうなったら。滅びゆく世界を生き抜くための愛と友情。映画の始まりのようなオープニング、インタールードを効果的に入れた構成、アルバム最後の曲「Cryin' with my guitar」に至るまでの劇的な流れは物語として完成されていた。思い付きで作った遊びのアルバムという域ははるかに超えていた。
Jun Inoueはこう言った。
「ストーリーを作りたかったんですね。YTから曲が来て彼も近未来的なアルバムにしたい、と言っていて。曲と演奏が詞を呼びました。どん詰まりの世界の中で見える光に向けて旅だってゆく、みたいな感じですね。最後の『Cryin' with my guitar』は、YTの人生ですね」
アルバムでは氷室京介も4曲歌っている。YTとJun Inoueとボストンで同じバンドだったというGin Kitagawaも2曲。氷室京介のライブのマニピュレーター担当、Tesseyの曲もある。それぞれの楽器や全体の音を彼らで作り上げている。名実ともに「氷室京介と親交のあるクリエーター」で作り上げたアルバムとなった。氷室京介が彼らに「場」を提供したと言っていいのかもしれない。でも、マニア向けな実験作ではない。クオリティーとポピュラリティを備えたハードロックアルバムだ。
Jun Inoueは「YTとは19,20歳の頃、夜な夜な世界観とか人生観を話してましたからね。日本の音楽を変えてやるというような。その頃を思い出しながら作りました」
YTは「ギターはがっつり弾いてるし曲や歌詞もいい。音楽的にもすごいことをやってる、ほんまもんのロックをやってるという自負はあります」と言った。
バンド名をつけたのは氷室京介だった。「GOSPELS OF JUDAS」というのは「ユダの福音書」の原題。イエス・キリストの裏切り者とされ、その一方でキリストを最も愛していたという説もある異端の人物になぞらえたアルバム――。
それは日本のロックに飽き足らなかった「ユダ」たちからの未来への提言なのかもしれない。
(タケ)