ニュースキュレーションアプリを提供する「Gunosy(グノシー)」が事業領域を拡大し、ニュースへの依存低下を目指す。
同社は2018年7月12日、通期決算(2017年6月~2018年5月)を発表。また東京都内で開いた事業戦略説明会で、「ブロックチェーン」「投資」事業への参入を明言した。
急成長も「暗雲」
「情報を世界中の人に最適に届ける」を企業理念とする同社は、AI(人工知能)を用いた情報配信や広告テクノロジーを武器に、これまで「ニュース」「広告」の2本を事業の柱としていた。
2011年にニュースキュレーションサービス「グノシー」を配信し、15年12月にはゲーム総合情報サイト「game8」を運営する「ゲームエイト」を子会社化。16年1月にはKDDIとメディア事業における業務提携を結び、16年6月にニュースアプリ「ニュースパス」を、17年5月には女性向けニュースアプリ「LUCRA(ルクラ)」を共創した。
広告事業は、業界でいち早く「(ニュース間に表示される)インフィード広告」や「動画広告」に乗り出すなど商品ラインアップに定評がある。18年7月には動画広告の販売に特化した新会社「VIDPOOL(ビッドプール)」をサイバーエージェントと設立した。
創業から約2年半で東証マザーズに上場し、17年12月には東証1部に市場変更。急成長を遂げてきたグノシー社だが、18年5月期の決算は芳しくなかった。売上高は前期比44.7%増の112億円としたが、純利益は5億円(前期比55.5%減)と大きく落ち込んだ。
同社は、
「『ニュースパス』および『LUCRA』におけるアクティブユーザー数が順調な積み上がりをみせたものの、『グノシー』の新規獲得ユーザーの継続率が想定を下回ったため、Gunosy Ads(広告商品)に係る売上高も想定を下回った」
と分析する。
ブロックチェーンは「インターネット以来の革命」
グノシーに月に一度でも訪れたことのある「月間アクティブユーザー」の数は、16年6月ごろから横ばい、もしくは微減が続く。
この数字について、代表取締役COO(最高執行責任者)の竹谷祐哉氏はこう見る。
「かなり早いタイミングでニュースアプリに参入し、広告費も6年間絶やすことはなかったが、今こういう状態。ニュースアプリの市場としては、他社さんの数字を見てもここからさらにマーケットが拡大していくというのは極めて考えにくい」
そこで、メディア企業から「総合インターネット企業」への転身を目指し、新規事業である「ブロックチェーン」と「投資」事業への参入を発表した。
ブロックチェーンとは、情報をさまざまなネットワークに分散・記録するデータベースのようなものを指し、仮想通貨取引などに用いられる。
グノシーの創業者で代表取締役CEO(最高経営責任者)の福島良典氏は、ブロックチェーンの技術を「インターネット以来の革命」と位置付け、同事業を行なう新会社「LayerX(レイヤーエックス)」の設立を決意。決済アプリを手掛けるAnyPay(エニーペイ)社との共同出資で、福島氏が代表取締役に就く。グノシー社では取締役に退き、竹谷氏がCEOに就任する計画だ。
事業内容はブロックチェーンに関するコンサルティングや、仮想通貨を使った資金調達(ICO)の支援など。グノシー社は機械学習で培った技術力を生かし、ブロックチェーンの研究に力を入れていた。
投資事業では、9月にシンガポールで投資会社を設立予定。ブロックチェーンやAI、シェアリングエコノミー分野を中心に投資していくという。
ニュースもテコ入れ、ビジョン策定
一方で、「メディア事業3か年ビジョン」を掲げ、「基幹事業」のテコ入れも進める。
方策は主に2点ある。1点目は、新規ニュースメディアの立ち上げだ。(1)内製(2)他社との協業(3)M&A(合併・買収)(4)グノシーのカテゴリ(政治、スポーツなど)から切り出し――のいずれかの方法での展開を目指す。
(4)に関しては、「一つのアプリにいろんな要素を詰め込みすぎると、使いづらいというユーザーが多い」(竹谷氏)との問題意識もある。18年5月期第2四半期決算資料では「『複数機能/単一アプリ』から『単一機能/複数アプリ』」への戦略転換を発表していた。
2点目は、グノシーアプリの非ニュース分野の拡充だ。ライブ動画やクーポン、マンガなどニュース以外の要素も盛り込み、「ニュースだけでは使ってもらえなかった層に対しアプローチしていきたい」(竹谷氏)
グノシー社は来期の決算見通しを、売上高139億円、純利益16億円と増収増益を見込む。ヤフーニュースやスマートニュース、LINENEWS、NewsPicksなど競合ひしめく市場で、新たな成長戦略は功を奏するか。