脳性まひの子息を持つ経済学者が障害者問題を徹底分析

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すべての人にとって地続きとなるテーマ

(2) 障害者雇用の義務付けはどこまで有効か

   法律上、企業には、障害者の雇用が義務付けられているが、大企業を中心に、特例子会社を設け、障害者の雇用を行い、グループ会社内の軽作業を集約し実施している企業が増えている。こうした特例子会社を通じた障害者の雇用は、一見、有効な対策に見えるが、同時に課題もある。

   規制をクリアするために、本来は外部委託するなどして効率化すべき社内業務を温存するなど、特例子会社が「企業内障害者施設化」するリスクが高まっているというのだ。

   そもそも中小企業では、障害者を雇用して担わせるほどの軽作業はなく、むしろペナルティーとしての納付金を払った方がいいというところも多い。このまま雇用の義務付け(法定雇用率)を強化していく政策には限界があるのではないかというのが著者の見立てだ。 著者曰く、現行以上の法定雇用率の引き上げに当たっては、福祉事業所に仕事を委託することで、その仕事量に応じて、雇用したとみなす仕組み(みなし雇用)を一部認めてはどうかという。

   障害者の支援に慣れていない企業が無理をして障害者雇用を増やす必要がなくなるし、仕事の確保に困っていた福祉事業所は、受注が増え、障害者に支払う賃金を引き上げることが可能となるというのだ。

   このみなし雇用制度には、仕事を福祉事業所に発注すれば事足れりといった、企業側の障害者雇用意識の後退を招くのではないかといった懸念もある。他方、障害者が担いうる仕事が福祉事業所に集約され、そこでの待遇改善につながるほか、発注した企業の生産性の向上に資する可能性もある。

   著者のこの提案は、一般企業と福祉事業所が、それぞれ自らの得意分野(企業は生産活動、福祉事業所は障害者の就労支援)で力を発揮することで、全体の効率を高めようという、経済合理性を踏まえた戦略である。この筋書き通りに事が運ぶかどうかは、慎重な検討が必要であろうが、興味深い提案である。

   このように、障害者問題を経済学の視点で考えるというユニークな試みは、新たな気づきを与えてくれる。しかもそれは、障害者問題が決して特別な問題ではなく、すべての人にとって地続きとなるテーマであることを教えてくれるのだ。

   著者は、本書の結びでこう語る。

「私たちに必要なのは、障害者に映し出されている社会の姿に気づくことである。これは障害者から学ぶといってもいいだろう」

JOJO(厚生労働省)

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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