「毒蜘蛛パニック」を思わせる盛り上がり
ハンガリー出身ではありますが、広く旅をしてフランスやドイツにも居住したリストは、イタリアにもゆかりの深い人でした。自身の結婚問題で悩んで、バチカンに直訴に行ったり、出家したりしたこともありますが、一方で、リストはクラシック音楽発祥の地であり、古代からの文明が折り重なるように体感できる「イタリア」に、ゲーテのように魅了された、といってもいいでしょう。
そんなリストのピアノ作品に、「巡礼の年」というシリーズがあり、その第3集にあたる「巡礼の年 第2年補遺 ヴェネツィアとナポリ」の最終第3曲目が、「タランテラ」です。「巡礼の年」シリーズを締めくくるに値する、派手な曲を作るのに、南イタリアの激しい舞曲形式「タランテラ」をリストが選んだのは、自然なことだったのでしょう。
冒頭から激しい連打とともに、不気味なダンスが始まるこの曲は、中間部では一転して、ナポリのゴンドラの船頭の舟歌を思わせるようなカンツォーネ風の旋律が出てきます。最後の部分では、リストの超絶技巧をフルに活かした激しいダンスになり、クライマックスを迎えるところなどは、まさに「毒蜘蛛パニック」を思わせる盛り上がりぶりです。
ロマン派ピアノ曲の白眉の一つであるこの曲は、人気曲となり、現在では単独で演奏されることも多くなっています。毒のある蜘蛛は恐ろしいですが、それにインスパイアされてできた、ヴィルトオーゾな「タランテラ」は、今日も、我々を楽しませてくれます。
本田聖嗣