VOCE8月号の「齋藤薫の美容自身 Stage2」で、美容ジャーナリストの齋藤薫さんが、女性の「歳のとりかた」に触れて「決定的に下手な人と上手い人がいる」と指摘している。
「若く見えるか老けて見えるか、ではない。進化する人か、劣化する人か、既にそうした分類が始まっている」というのだ。進化か劣化か...なんとも厳しい対比である。
このほど創刊20年を迎えた講談社の月刊誌。美容は女性の「娯楽であり、教養であり、生き方であり、噂話である」とし、様々な角度から美容を楽しむ編集方針だ。
齋藤さんの連載は今号で122回を数え、その助言というか愛のムチは見た目の美しさにとどまらず、女性の生き方や男女関係にも及ぶ。発する言葉に容赦はない。
「劣化は、歳を重ねていく過程で、老化の宿命以上に、本人が自らを壊してしまったケースを指す。必要以上に自らを変貌させてしまったケースを指すのだ」
歳のとり方の上手下手、分かれ道は人間性だという。人としてのバランスが悪いと年齢以上に変貌し、逆に、心のバランスがとれた人は不思議に劣化しないそうだ。歳の重ね方が上手い女性として、先日のカンヌ映画祭で審査委員長を務めた49歳の女優、ケイト・ブランシェットが例示される。「単に若く見えるのではない、その美しさは全く危なげなく、衰えていく気配さえ感じない」と。
負の要素を揃えない
筆者は「劣化のベクトルを背負わないために、ぜひ知っておいてほしいことがある」と続ける。それは、マイナス要素を同時に二つ以上持たないことだという。
「少し太ってしまった上に、不機嫌に見えたら、それだけで見事な劣化。太ってしまったら、その分だけにこやかに。増えた体重を笑い飛ばすくらいの明るさで、太った分のネガティブを消すのだ。もし不機嫌な顔で生きたいならば、逆に完璧な美貌を保っておくこと」
負の要素が二つ以上揃うと「女の場合、掛け算になり、悪意に満ちた劣化という評価を自ら引き出してしまう」。すなわち「太ったら、老けてはいけない。老けたら、太ってはいけない」...この一節はコラムのタイトルにも使われている。ああ男でよかった。
ただ、マイナス要素も一つだけならなんとかなるらしい。齋藤さんが挙げた例は、ロシア出身の世界的オペラ歌手、アンナ・ネトレプコ、46歳だ。
若い頃はソプラノの美声とともに美貌で評判だったが、ある時期からみるみる肥え始め、コロコロになった。ところが本人は悪びれることもなく、インスタで派手な衣装を披露し、舞台でも絶世の美女役を臆せず歌い上げていく。出番はあまり減っていないらしい。
「マイナス要素が一つ生まれても、何かを諦めたり、負の世界に逃げ込んだりしてはいけない。決して力を抜いてはいけない...人生をかけて進化する女へとシフトしてほしい。一生輝きを増やし続けるために」
女はつらいよ?
女性であること、あり続けることは厳しいものだ。負の要素が二つでもうダメ、しかも足し算ではなく掛け算でマイナスのベクトルが太くなっていく、というのだから。
そんな「おんな道」を全うするには、齋藤さんのような、優しくも厳しいナビゲーターが必要なのかもしれない。心身の美しさを指南し、啓発してくれる大先輩、ご意見番として、彼女は20~30代中心の購読層から深く信頼されているのだろう。
もちろん「キレイになるって、面白い!」というVOCE的な生き方をよしとしない、あるいはついていけない女性もいるはずだ。小顔がどうした、美眉がなんだと。
男性の場合、容姿の三大コンプレックスは、低身長、肥満、薄毛とされる。実際にはどれもカナ2字の不快語で表現されるが、中高年のオッサンなら二つくらいたやすく揃う。ただ、いざとなれば「男は見た目じゃない」という呪文が救ってくれる。経済力、包容力、義理人情...さまざまな逃げ道が男には用意されている。ほんと男で助かった。
女性誌の不思議ワールドに初めて足を踏み入れ、さまよいつつ思うのは、美を追い、美に追いかけられる人生はしんどいなあということだ。もっともビューティー誌の読者は、ネイルの手入れでもしながら「それが面白いのよ」と言うに違いないのだが。
冨永 格