僕は芸術を追求したい
アルバムを総じての印象は「アートとしてのポップミュージック」だった。ヒットチャートの順位やカラオケで歌われることを意識して作られたものではない、音楽でしか表現できないこと。彼は、自分にとっての「音楽」についてこう言った。
「何かを表現するのに最初に来るのは言葉なんです。文章。悲しみを表現するのにピアノの前でマイナーコードを弾くということにはならない。そういう意味では音楽家ではないなと思います。でも、言葉では表現できない感覚や感情を表現できるのが音楽なんです」
ポップミュージックは、作り手にとっての「作品」と「売れる」ということで評価される「商品」という二つの側面を持っている。彼はTokyo Recordingsのレーベルオーナーとして「今、流行っている音楽、売れている音楽を徹底的に研究した」と言った。
「何が人の心をとらえるのか、どんなテンポが聞き手を踊らせるのか。それらと同じものを作るスキルをどう身に着けるか頑張ってました。でも、そういうことで俺は死ねるのか、と思った。もうやりません。音楽を『商品』と思うのはビジネスをしている人たち。僕は芸術を追求したい。そもそも関係のないものだと思います」
アルバムの資料に「分離派の夏」完成に寄せて、という一文があった。その中で彼はこう書いていた。
「本作品は『分離派』として生きた二十六年の弔いであり、慰みであり、癒しである」
このために自分の人生があった。
そう思えるデビューアルバムで新しい人生を歩き始めた27歳の初めての夏――。
今年、彼は野外フェスに軒並み参加する。
真夏の太陽の下で、どんなステージを見せてくれるのだろう。
(タケ)