作った本人がすっかり忘れていた異色の作品 ブリテン「アメリカ序曲」

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徴兵拒否し渡ったNYで作曲も幻になった「オケージョナル序曲」

   そして......ブリテン自身が、この曲を作曲したことを、「完璧に」忘れてしまったのです。そんなことがあるかと驚くばかりですが、ブリテンは、1972年にニューヨーク公立図書館に所蔵されていた、自筆譜を見せられるまで、本当にすっかりその存在を忘れていたのです。その証拠に、「オケージョナル序曲」という同じタイトルで、作品番号38の全く別の曲を作ってしまっていました。

   作曲家自身に忘れられ、30年後に、アメリカで再発見されたこの曲は、改めて「アメリカ序曲」と名前を変えて、1983年、サイモン・ラトルが指揮するイギリスのバーミンガム市交響楽団によって、やっと初演されたのです。

   アメリカの作曲家、A.コープランドの影響が感じられるこの曲は、時として難解なこともあるブリテンの作品としては、意外なほど素朴で聞きやすく、演奏時間も10分ほどで、近年では、演奏会のオープニングなどに取り上げられることも多くなっています。埋もれさせておくには惜しい、素敵なオーケストラ曲です。

   「アメリカ序曲」を作曲し終えた頃のブリテンは、戦争に巻き込まれた祖国イギリスに帰ろうと、ニューヨークの埠頭で、乗船の順番を待っている状態でした。そしてこのころは、アメリカ大陸に渡っても、そして祖国に帰っても創作力旺盛だったブリテンが、数か月ほど作品を書いていないとされる「空白期間」だったのです。祖国へ戻りたい、とはやる気持ちが、「アメリカ序曲」の存在をすっかり忘却させてしまったのでしょうか?

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

   私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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