「外酒」の誘惑 大竹聡さんがベンチでの一杯を愛する理由

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野外で薄まる不健全

   お酒が絡む随筆は、左党を「いますぐ呑みたい」気持ちにさせれば、読み物として成功といえる。一にも二にも筆者の肌感覚と、それをどう表現するかの勝負になる。大竹さんのように、握り飯やサンドイッチで呑める人は「真正」の呑み助であり、飾らない筆致が同輩の共感を誘うはずだ。

   休日の昼酒はアルコール中毒の予兆とも言われるし、下戸の方は「予兆どころかすでに患者ではないか」という疑念を持つかもしれない。しかし、昼酒にしかない旨さというのも確かにある。せっかくなのでカクテルに例えるなら、まだ元気な胃腸にたっぷりの時間を加え、数滴の背徳感を垂らしてシェイクしたような味わい、とでもいおうか。こいつを何百杯も飲んだ私が言うのだから、間違いない。

   いま思い出した。テレビ番組だったか随筆だったか、昼食のイタリアンを用意しながら、味見だけで白ワインを1本空けてしまう塩田ノアさんのエピソードが好きだ。

   同じ昼酒でも、大竹さんは自宅ではなく野外での一杯について書いている。昼から呑むことの不健全さが、アウトドアの爽やかさで半ば中和され、背徳臭はかなり薄くなる。

   彼はどうか知らないが、私はこれを、自分に言い聞かせるように書いている。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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