サザンオールスターズ40年
いくつになっても青春の「陽だまり感」

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「洋楽コンプレックス」を払拭

   ただ、サザンオールスターズが同時代を生きてきた外のバンドと異なっているのは、その後の軌跡にある。彼らの最大のヒットとなっているのは2000年1月に出たシングル「TSUNAMI」である。デビュー22年。メンバーは全員40代になっていた。若い時に華々しい成功を収めたバンドのキャリアの中で最大のヒットが40代になってからの作品という例は多くない。しかも、ここまで「言葉」に気を使ったことはないという曲だった。

   こういう例もある。桑田佳祐の2009年のシングル「君にさよならを」のカップリングに入っていたのは「声に出して歌いたい日本文学」。太宰治の「人間失格」や芥川龍之介の「蜘蛛の糸」や小林多喜二の「蟹工船」など11作品の一部を抜粋して曲をつけた20分以上に及ぶメドレーだった。「日本語の破壊者」とまで言われた桑田佳祐は「歌の言葉」に対して誰よりも貪欲なソングライターでもあるのだと思った。

   でも、そうしたソロ活動での試みはサザンオールスターズには持ち込んでいない。彼にとってサザンオールスターズは自分たちだけのものではなく「みんなの歌」という聖域として存在しているように見える。

   サザンオールスターズがその後のJ-POPに与えた影響はまだある。しばしば「雑食性」と称される洋楽と邦楽、両者に関してのマニアックで豊富な知識とそれに流されない大胆で型破りな遊び心とサービス精神。日本語の豊かさや日本の音楽ならではの面白さを印象付けたということで言えば、日本の音楽ファンが陥りがちだった「洋楽コンプレックス」を払拭したのが彼らでもあったと思う。

   デビュー曲やデビューアルバムにそのアーティストの全てが凝縮されているという例は多い。「勝手にシンドバッド」は、まさにそんな一曲だった。

   2018年8月1日に40周年記念のプレミアム・アルバム「海のOh,Yeah!!」が出る。98年にデビュー20周年に出た「海のYeah!!」の続編となるベストアルバム。読み方は前作の「海のイエー!」に対して「海のオヤー!」だ。「Daddy Side」「Mommy Side」と分かれた二枚組のDISC1の一曲目は「TSUNAMI」だ。

   デビュー20周年以降、人間でいえば「成人以降」となる作品は、そんな彼らの成熟の軌跡だろう。

   成熟。時が経つほどに深まってくる熟した味わい。それでいて丸くなるわけでも角が取れて行ったりというのでもない。若いころにはなかった明確な「伝えたいこと」。「海のOh,Yeah!!」収録の最新曲「闘う戦士(もの)たちへ愛をこめて」は、同じ時代を生きる企業戦士たちへの世代を超えた応援歌だ。

   6月25,26日、彼らは東京・NHKホールでデビュー40年のコンサートを開いた。ライブビューイングという形で中継された映画館の客席で見ながら、彼らが「バンド」であることを再認識させられた気がした。近年、ドームやスタジアムなど大会場で見ることの多いステージと違ってホールのステージにいる彼らは、風貌こそ短パン・Tシャツだったデビュー当時とは違っているものの5人が放っている微笑ましく和んだ空気感は大学のキャンパス仲間ならではだった。それは、長髪・ジーンズでどこか反体制的だった70年代初期のロックバンドとも80年代後半のビジュアル系バンドとも違った。学園闘争に騒然としていた「全共闘世代」や校内暴力が吹き荒れた「尾崎豊世代」とも違う「陽だまり感」こそ「サザン世代」ではないだろうか。

   いくつになっても青春、友達は永遠――。

   サザンオールスターズには、そんな言葉がよく似合う。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール
タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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