クラシック音楽は長い歴史を持つため、その歴史の中で磨かれて、傑作のみが後世に伝わり、現代の我々はそのレパートリーを享受することができます。1つの傑作の裏には、おそらく万を超える忘れられた同時代作品があったはずで、現代の作曲家たちも、自分も時代を超える傑作をものにしたいと、日々努力しているわけです。
ヴァイオリンソロによって壮大な世界が描かれる
歴史に耐えた名曲たちを、ただそのスタイルで演奏するだけでなく、形を変えて演奏する試みも頻繁に行われます。演奏する楽器の編成を変えたりするのです。そうやって「編曲」されたことによって、さらに名曲の誉れが高くなり、より一層人気が出たという曲がクラシックには数多くありますが、今日は、J.S.バッハの「シャコンヌ」の編曲作品のうちの1曲を登場させましょう。
「シャコンヌ」は、もともとヴァイオリン独奏の曲で、正確には、「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ より パルティータ第2番の第5曲 シャコンヌ」という曲です。バッハが音楽好きのケーテン侯の宮廷楽長をしているときに作曲された作品のうちの一つで、ヴァイオリン独奏でどこまで音楽を作れるかという限界に挑戦した曲といっても言い過ぎではない曲で、難技巧を駆使して、ヴァイオリンソロによって壮大な世界が描かれます。現代のヴァイオリニストにとっても「レパートリーに欠かせないバッハ作品」となっています。
このオリジナル曲が完成されたのは1720年ごろ、まだバロック時代のことで、ピアノという楽器は発明こそされていたものの、改良されてはおらず、ほとんどチェンバロに近い弱々しい音しか出ない楽器でした。バッハは試弾したことはあるものの、ピアノ独奏のためになにか作ろうという気はあまり起こさなかったようです。
時代ははるかに下って、19世紀も終わりにさしかかった1894年ごろ、イタリア生まれのピアニストにして作曲家、指揮者でもあったフェルッチョ・ブゾーニが、19世紀を席巻した楽器であるピアノ独奏のために、この「シャコンヌ」を編曲したのです。