狂言師のカラダ 野村萬斎さんが説く筋肉の拮抗状態

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身体言語の翻訳者

   能楽の舞台から飛び出した、というよりハミ出した狂言界のスターも52歳になった。NHKの朝ドラ「あぐり」や映画「陰陽師」などで俳優としての地歩を固めた今も、主戦場はもちろん、狂言の舞台である。

   日頃の鍛錬のたまものである「拮抗状態」。動きを止めた狂言師の装束の下では、あらゆる筋肉や神経が絶え間なく仕事をしている。バレエのように客席から筋肉の動きを追えないけれど、能と狂言は「動的静」を連ねた肉体パフォーマンスといえる。

   「エネルギーの振れ幅」「ジグザグにベクトルを拮抗」「止まっていることの迫力」等々の表現は素人には難解ではあるが、「ああ、そうだろうなあ」という共感に至らせる文章の力。多方面で当代きっての表現者なのかと感心した。

   並み外れた表現力や身体能力を持つ者が、己の所作、動作を的確に分析し、易しい言葉で説明してくれる。天からそんな二物を与えられた人はそういない。私たちは、身体言語の数少ない「翻訳者」のお陰で、別の世界を疑似体験することができるのだ。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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