スターダストレビュー、とにかく音楽を楽しむ
還暦を迎えたロック少年たち

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   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   先週、2018年6月13日の報道で驚かれた方も多いと思う。スターダストレビューのヴォーカル・ギター、根本要が脳血栓で緊急入院。今月一杯のスケジュールをキャンセルしてしまった。幸い、早期発見だったため2週間ほどの入院で復帰できるというものの、病名が病名であり心配するなという方が無理だろう。

   スターダストレビューは6月27日に4年ぶりのオリジナルアルバム「還暦少年」が発売になる。キャンセルされたスケジュールの中には東京と大阪で予定されていたアルバム発売記念フリーライブもあった。異変を自覚したのも連日のプロモーションの一環でラジオ出演していた最中だったという。彼は、こんなコメントを出している。

    「番組収録中にくちびるに痺れを感じ、おっ!しゃべりすぎるとくちびるは痺れるのか?と新しい発見にビックリしていたのですが、念のため病院で検査してもらいました。結果、小さな血栓が見つかり、このままだとさらに深刻な症状も出るかもと即入院となった次第です」

「還暦少年」(日本コロムビア、アマゾンHPより)
「還暦少年」(日本コロムビア、アマゾンHPより)

キャリア37年でピークがない

   そんなコメントは、「暇なんで病状とか書きたいことはたくさんあるけど、喋りだけでなく文章も長いとお叱りを受けそう」「夏にはサイボーグ化した還暦少年をお見せする」というユーモアを交えた言葉で終わっていた。彼の留まることのない饒舌さはライブでもインタビューでも変わらない。

   スターダストレビューは、根本要、ベース・柿沼清史、ドラム・寺田正美、パーカッション・林紀勝という埼玉県出身の4人組。81年に「シュガーはお年頃」と同時発売のアルバム「STARDUST REVUE」でデビューした日本屈指のライブバンド。一昨年にデビュー35周年を迎え、公式スケジュールだけで80本、合間のチャリティライブなどを入れると90本以上に及ぶ記念ツアーを行った。その模様は去年、5枚組ライブアルバム「スタレビ」として発売されている。4パターンの日替わり曲も含めてそのツアーで演奏された62曲すべてを網羅、全セットリストも明記されている。それでいて5千円という良心的な価格はまさにライブバンドならではの異例のアルバムだった。

「ただ、日替わりが四パターンあるからと言って全部見ないと僕らのことが分からないとか、そういうことではないんです。その日しかご覧になれないという方のためにやってますし、一回で満足して頂くことしか考えてません。でも、自分が見たコンサートの曲が入ってないと寂しいでしょうから、ということに尽きます」

   根本要は、筆者が担当しているFM COCOLOの番組「J-POP LEGEND FORUM」のインタビューでそう言った。毎月一人のアーティストやアルバムを特集するという番組の6月の特集がスターダストレビュー。彼が「くちびるに異変を感じた」という日がその収録だった。

   スターダストレビューにはいくつもの異例がある。例えば、デビュー37年というキャリアの中で「ピーク」がない。それだけのキャリアと実績がありながら、チャート一位とかミリオンセラーなどの誰もが知っているビッグヒットがない。アルバムチャートは90年のベストアルバム「BEST WISHES」と94年のオリジナルアルバム「楽団」の2位が最高位。今もコンサートに欠かせない代表曲である86年の「今夜だけきっと」はチャート92位だった。

「あの曲は自信作だったのにほんとに売れなかった(笑)。でも、むしろ売れなくてよかったと思ってるんです。ライブで聞いてくれた人にとってはその時の新曲でもありますから。僕らのお客さんは、ヒット曲もそうじゃない曲も新しい曲も古い曲も同じように受け止めてくれてるんじゃないでしょうか」

どんなにマニアックでも一人よがりにならない

   90年代に「スタレビの謎」と言われたことがあった。ウッドストックに象徴される70年代前後のロックやAORと呼ばれるその後のアメリカの大人向けのロックに傾倒し、ジャズや歌謡曲の要素も織り込んだ多彩なポップスがなぜ爆発的なヒットにならないのか。すでに武道館コンサートも行いツアーはどこも満席、音楽通にも評価の高いライブバンドが、なぜカリスマ的存在にならないのか。80年代前半は、尾崎豊が登場し、浜田省吾や佐野元春ら、メッセージ性の強いロックが主流になる時代だった、フォーク系の事務所に所属していた、テレビよりもライブを優先していた、などいくつかの要因はあるものの、今でもなぜだったんだろうと思う事がある。

「自分たちでははっぴいえんどや山下達郎さんの流れの音楽のつもりでしたけど、そう思ってもらえなかった(笑)。お笑いの要素が強かったからでしょうか(笑)」

   6月27日に発売になる4年ぶりのアルバム「還暦少年」は、そんなキャリアの中でも特筆されるべきアルバムだと思う。山下達郎や小田和正のライブなどで知られる4歳下のギタリスト、佐橋佳幸を初めて外部プロデューサーとして迎えている。

「影響されている音楽が似ているから言わなくてもわかる。自分たちでやっているともっと作りこむ、もっと練り上げようと思うところを、これでいいんじゃないですか、と言ってくれる。目から鱗のレコーディングでした」

   スターダストレビューのライブは、「音楽を楽しんでいる」という一点に尽きる。どんなにマニアックなことをやっていても一人よがりにならない。2001年に静岡県掛川市の「つま恋」で行った「100曲ライブ」、2012年にさいたまスーパーアリーナでの「5時間おみやげつきライブ」、去年同所で行った「35周年大宴会」など、とことん楽しもうという姿勢に貫かれている。去年は、小田和正、鈴木雅之、KAN、スキマスイッチ、渡辺美里、松たか子ら11組のゲストも参加したお祭りだった。

   新作アルバム「還暦少年」は、そんな「音楽好き」ならではのアルバムになっている。楽器や機材からこだわったという音楽のスタイルはロックやファンク、ラテンやブルースと幅広い。どの曲にもバンドメンバーのコーラスがふんだんに取り入れられている。力が抜けて心地良いロックアルバムはキャリアあってこそだ。

   還暦を迎えたロック少年たちーー。

   ジャケットは、迎えられなかった同世代のバンド仲間の娘さんが書いたものだそうだ。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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