音楽は人と人の絆、感動の渦 これが佐渡裕の「哲学」

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指揮者はなんのためにいるのか。

   記憶に残る演奏会は、佐渡裕の本領。11歳の時の原体験がある。レコードから聞こえたバーンスタインのマーラー。佐渡は、11歳の時の自分を感動させたバーンスタイン以上に、聴衆を感動させられるかを意識して棒を振るのだという。

   東日本大震災の直後、2011年5月に三日間だけ、佐渡は、念願のベルリンフィルを指揮した。師のバーンスタインがマーラーの交響曲第6番を振ったとき、終演後拍手が起きずすすり泣く声だけが響いたことがあるという。

   聴衆の心に癒し、励まし、歓びを与えられるのか。一緒に生きていることを実感してもらえるか。三日目にその瞬間が訪れた。楽団員全員が鳴らしている音に導かれ、2500人の演奏者と聴衆が幸福感に包まれ、感激が湧き上がった。楽団員が解散してもカーテンコールが続いた。

   最高の音を味わうためには楽団員はなんでもする。音楽に仕えていることを誇りにしている。世界最高峰の真髄はそこにあった。そして聴衆も楽団員も、指揮者にそのことを求めていたのである。

   筋肉が動く、音符を体感する音楽。からだが欲すると生命のエネルギーが躍動する。ティンパニー音の立ち上がりはオーケストラの燃焼度を高める。コントラバスの低音はオーケストラの運動能力を高め、演奏に奥行きと深みを与える。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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