みんなで考え、社会保障を「自分事」に
この社会保障の哲学カフェでは、「高所得者への年金給付の是非」のほか、「健康ゴールド免許制度はうまくいくのか」、「高齢者偏重の社会保障を若者世代に振り向けよという議論をどう思うか」などのテーマが議論された。
グループごとに、アプローチや結論は若干、異なっていたが、議論を重ねるにつれて、「社会保障は何のために存在するのか」という根っこに関わる話へとつながっていく点が共通していた。
・社会保障は、損得で考えるものではない。損得勘定が出てきた時点で成り立たなくなる
・安心という目に見えない価値こそが、社会保障の意義
など、いずれも評者自身、日頃、社会保障の仕事に携わっていながら、ついつい忘れがちとなる立脚点だ。
哲学カフェという場が存在したからこそ、若い世代の人々が社会保障を「自分事」としてとらえ、考えを高め合い、こうした基本的考え、立脚点に気づいていったのだ。本書でも紹介されているように、近年、「社会保障教育」という言葉が広がり始めている。その背景には、今や、GDP(国内総生産)の約2割に相当する規模にまで達した社会保障について、国民の支持を得ながら運営していくには、若い世代の理解が必要だという考えもある。
「教育」という言葉が適切かどうかは別として、少なくとも、若手を含めて国民それぞれが、社会保障の課題について、少し時間をとってグループで話し合う機会を持つことは極めて重要だ。一見、地道なアプローチに見えるが、その場で経験するであろう「社会保障って一体何なのか」という根っこへの問いかけは、社会保障への理解とそれを支える力につながることを本書は教えてくれる。
JOJO(厚生労働省)