クラシックの作曲家は、ある曲を作曲するとき、必ずその曲を演奏する楽器のことを念頭に置いています。それは、楽器は出せる音の音域が限られているからであり、また楽器特有の音色があるからです。従って、通常は「編曲」という作業、すなわち音域を移したり、調を変えたりしない限り、たとえば、チェロソナタをそのままヴァイオリンソナタとして演奏することはできません。
フルートソナタの評判はイマイチだった
しかし、今日は、フルートソナタとしても、ヴァイオリンソナタとしても共によく演奏される曲を取り上げましょう。プロコフィエフのフルート(ヴァイオリン)ソナタ 第2番です。
ウクライナ生まれのパワフルな作曲家セルゲイ・プロコフィエフは、第2次世界大戦中も祖国ソビエト連邦に居ました。しかし、さすがにドイツ軍がレニングラードを包囲し、首都モスクワ近くまで迫ってきたため、疎開することになり、ウラル山脈の西側まで移動します。疎開した先のペルミで、1943年にフルートソナタは完成しました。
モスクワで初演されたものの、あまり評判にはならず、フルーティストたちから忘れ去られてしまいます。現代では重要なフルートレパートリーの一つとなっているので、想像がつきませんが、第2次大戦中ということも関係しているかもしれません。
ところが、フルートソナタの初演を聞いていた名ヴァイオリニスト、ダヴィッド・オイストラフが、プロコフィエフ本人に、ヴァイオリンソナタへの改作を強く勧めます。確かに、フルートとヴァイオリンは、ともに木管楽器と弦楽器のいわば「一番上の音域」を担当するメイン楽器なので、使える音域が似ています。しかし、全く異なる楽器ですから、プロコフィエフも最初は戸惑ったかもしれません。しかし、フルートソナタとして、当時はお世辞にも成功作と言えない評価しか得ていなかったので、プロコフィエフはヴァイオリンソナタに書き換えることを決心します。