「待てない自分」の否定
小山さんは90年代の人気番組「料理の鉄人」の構成を手がけ、故郷の、というより全国区の人気キャラ「くまモン」の生みの親の一人としても知られる。時代を先取りするトレンド・クリエーターにして脚本家でもあり、言葉への感性は鋭く、文学的な描写も随所に見られる。上記コラムはこう結ばれる。
「そんなことを考えながら地下鉄のプラットホームに立つと、電車の来ない時間が意外と貴重なものに感じられるのである」
場面は熊本から東京へ、列車の来ない無人駅から都会の雑踏へと転じ、話の筋はしっかり冒頭の問題提起に戻ってくる。「待てない自分」の否定である。メディアの世界で自ら「進みすぎた何か」を追い求めてきた人の言葉だけに、説得力がある。
細部の言葉遣いから大きな展開まで、確かな日本語で書かれたものは、まず読みやすい。気が散らずに筋を追えるからだ。自戒を込めてのことだが、ひと様に読ませる文章の、やはり基本のキといえる。
冨永 格