待てない時代 小山薫堂さんは、列車の来ない無人駅で自省した

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「待てない自分」の否定

   小山さんは90年代の人気番組「料理の鉄人」の構成を手がけ、故郷の、というより全国区の人気キャラ「くまモン」の生みの親の一人としても知られる。時代を先取りするトレンド・クリエーターにして脚本家でもあり、言葉への感性は鋭く、文学的な描写も随所に見られる。上記コラムはこう結ばれる。

「そんなことを考えながら地下鉄のプラットホームに立つと、電車の来ない時間が意外と貴重なものに感じられるのである」

   場面は熊本から東京へ、列車の来ない無人駅から都会の雑踏へと転じ、話の筋はしっかり冒頭の問題提起に戻ってくる。「待てない自分」の否定である。メディアの世界で自ら「進みすぎた何か」を追い求めてきた人の言葉だけに、説得力がある。

   細部の言葉遣いから大きな展開まで、確かな日本語で書かれたものは、まず読みやすい。気が散らずに筋を追えるからだ。自戒を込めてのことだが、ひと様に読ませる文章の、やはり基本のキといえる。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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