北海道の有線で一位に
青春の光と影――。
荒木一郎の音楽は、そういう分け方をすれば「影」ということになるだろう。世の中と折り合いのつかない若者の陰翳感というのだろうか。「ほろ苦いブルース」という言葉に託したもの。ストリングスの情感が似合っていた「空に星があるように」のそこはかとない孤独感の代わりにバンジョーの響きが軽やかなフォークロックのサウンドと「バイバイ」を繰り返す歌詞は、過去に捕らわれず、そこから歩き出そうとする心境を感じさせた。その中での「六月の空はまぶし過ぎる僕」という歌詞が沁みた。
5月ではなく6月。青葉が目に鮮やかな5月でも梅雨明けの7月でもない。やがて来る梅雨を前にした6月ならではのウエットな「ほろ苦さ」は20代では感じないものではないだろうか。
東京のメディアでは紹介されることの少なかった「君に捧げるほろ苦いブルース」は、北海道の有線で一位になった。その時に、6月の空のような北海道の音楽ファンの自由度の高さに感銘を受けたことが忘れられない。
荒木一郎は小説家、プロデューサー、俳優、マジシャン、実業家と様々な肩書を持っている。でも、歌う姿を見ることはまずない。2016年に50周年のライブを渋谷文化村オーチャードホールで一日開いたくらいだ。筆者が最後に見たのは2010年に北沢タウンホールで行った三日間ライブ。その時も8年ぶりだった。もう見ることはないだろう。
加山雄三は、今年も全国ツアーという形で81歳の元気な姿を見せてくれている。加藤登紀子も50周年を超えて益々意欲的な活動を展開している。
それは「誤差」ではなく、その後のそれぞれの積み重ねによる必然的な「現実」でもあるのかもしれない。
でも、今でも6月になるとふっとあの歌が聞きたくなるのは、日々感じる「ほろ苦さ」が年々増しているからでもあるように思う。
(タケ)