一見シンプル、でも突き詰めるにはかなり難しい
弦楽四重奏は、そのミニマムで、奏者同士の密な連係が必要とされる編成から、室内楽のひとつの重要な形式として、その後もたくさんの作曲家が力を入れて作曲しますが、ハイドンほど量産した人はついに現れず、ハイドン以後の時代は交響曲と同じく、ある意味「作曲家生命をかけて傑作を数少なく残す」というジャンルになりました。
そんな難しい弦楽四重奏というジャンルを事実上創始したハイドンは、もっと評価されてよいのかもしれません。さらに、ハイドンの作品を丹念に見てゆくと、交響曲でもピアノソナタでも、随所に「弦楽四重奏的な」発想が見られるのです。ハイドンは弦楽四重奏曲を特に多く作曲したというよりも、もともと弦楽四重奏的な、つまり4つのメロディーが時には離れ、時には協力して歌い上げる音楽を常に作曲の中心においていて、それから交響曲や鍵盤楽器の曲も発想するが、弦楽四重奏曲はそれがストレートのまま発揮できる曲の形式だった、と言えるのかもしれません。実際、彼の弦楽四重奏曲は、一見シンプルで弾きやすいものも多いのですが、突き詰めるにはかなり難しい音楽となっていて、熟練の技を感じさせるところが随所にあるのです。
数多くの弦楽四重奏曲の中から、入門編としておすすめなのが、第67番の「ひばり」です。円熟期のハイドンが、ロンドン演奏旅行のために書いたと思われる作品で、1楽章にヒバリの鳴き声のようなパッセージが出てくることから、この愛称で呼ばれています。円熟期の作品らしく、豪華で、緩急自在で、のびやかなハイドンの特徴がよく出ている名曲です。
本田聖嗣