あるジャンルやものごとなどを生み出した偉大な才能を讃えて「~の父」と呼ぶことが日本ではよくあります。「音楽の父」は、J.S.バッハに贈られた称号ですが、もちろん、バッハが音楽を発明したわけではなく、その後に続くクラシック音楽全体に大きな影響を与えた彼の残したたくさんの作品が、粒ぞろいで素晴らしいことへの称賛から、このような呼ばれ方をしているわけです。
モーツァルト、ベートーヴェンを圧倒する曲数
ところで、「~の父」の称号を2つも持つ作曲家をご存知ですか?そのひとつは「交響曲の父」というもので、これは、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンに用いられます。その後に続くモーツァルトも、ベートーヴェンも、歴史に残る名交響曲を残しましたが、「交響曲の父」は、いち早くこのジャンルに傑作を残したハイドンなのです。
そのハイドンは、なんともうひとつ、「弦楽四重奏の父」とも呼ばれています。ヴァイオリン2本と、ヴィオラと、チェロの4人で演奏する弦楽四重奏のルーツは、実はよくわかっていません。バロック時代のトリオ・ソナタがもとになったという説もあれば、もう少し大きい弦楽室内合奏から、伴奏を受け持っていたチェンバロがいなくなり、低弦はコントラバスを省き、ミニマルな編成としての弦楽四重奏が成立した・・・となんとなく推測されていますが、間違いないのは古典派と呼ばれる時代、ハイドンは、なんと70曲近い弦楽四重奏曲を作曲したのです。
その後に続き、ハイドンと交流があったために、先輩ハイドンに捧げた「ハイドン・セット」と呼ばれる複数の弦楽四重奏曲を作ったモーツァルトでさえ23曲、同じく弦楽四重奏にも情熱を燃やしたベートーヴェンでさえ、20曲に満たない数の曲しか残していないことを考えると、ハイドンが間違いなく「弦楽四重奏の父」の称号にふさわしいといえるでしょう。