「再利用したくなるほど魅力的」だったか
「ラ・ボエーム」は1896年に初演されていて、歌曲「太陽と愛」は、1888年の作品ですから、明らかに、歌曲のほうが先に作曲されています。その歌詞の内容は、「太陽」と「愛」が、朝まだ目覚めていない女性にお互いに呼びかけ、太陽は女性を美しいと言い、愛は女性に、朝一番に愛しい人のことを考えなさい、と呼びかける、まことに「アモーレの国」イタリアらしい、かわいらしい感じの曲です。歌詞の内容から、「朝の歌」と副題がつけられることもあります。しかも、歌詞の末尾に、プッチーニからパガニーニへ、という一節があり、作曲者自身から、19世紀ヨーロッパを震撼させた天才ヴァイオリニストにして作曲家、ニコロ・パガニーニへのメッセージともとれる内容になっています。この歌曲の歌詞は、作曲家本人とされています。
そして、このメロディーがほぼそのままの形で、代表作であり悲劇のオペラ「ラ・ボエーム」の第3幕、重要な別離のシーンで現れるのです。歌詞の内容は、全くと言っていいほど対照的ですが、プッチーニにとっては、「再利用したくなるほど魅力的なメロディー」だったのでしょう。
稀代のメロディーメーカーとして、数々の大ヒットオペラ作品を作り上げたプッチーニは、時に、「じっくり寝かせた」メロディーを、オペラにちりばめているのです。
本田聖嗣