ロックミュージシャンも...広く演奏される人気曲
アルベニスは、未完の曲も、タイトルだけは書き残していたので、なんと彼の死の数年後、ドイツの出版社の手によって、全8曲からなる「スペイン組曲 完成版」が計画されました。足りない第4、5、6、8曲は、アルベニスの他の作品から転用して、ひとつの曲集として出版されたのです。その折、「スペインの歌」の「前奏曲」は「アストゥリアス(伝説)」という題名とサブタイトルをつけられて5曲目に配置されます。音楽的には、この曲は、スペインと縁の深い楽器、ギターの演奏を模したピアノ曲で、「スペインらしさ」を我々が最も感じるスペイン南部アンダルシア地方のフラメンコ・スタイルで書かれているのですが、皮肉なことに、あまり関係のない北部スペインのアストゥリアス地方の名前が付けられてしまったのです。
ところが、このちぐはぐな題名にかかわらず、ギタースタイルのピアノ曲だからということで、この曲は容易に...というより、ほぼ完璧にギター曲に編曲することができました。フランシスコ・タレガや、アンドレアス・セゴビアといったギタリストたちによって、オリジナルの調も変えて編曲され、広く演奏されるようになると大ヒットし、クラシックの枠も超えてロックなどポピュラーの音楽家たちによっても取り上げられることになり、いまやオリジナルのピアノ曲よりギター版のほうが親しまれている、といってもよいくらいです。
アルベニスは、地方色豊かなスペインを描く組曲の冒頭に演奏されるように、前奏曲として、フラメンコ風のこの曲を作曲したのですが、そのギター風のスタイルゆえ、彼の死後、思わぬ経緯を経て、「アストゥリアス」は単独で愛される「スペイン風の曲」となったのです。
本田聖嗣