スマホはメモ帳 川上未映子さんは出産前後も左手で握っていた

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失われた「部品」

   私もコラムを書く時、外出先で気の利いた言い回しや比喩が思い浮かぶたび、ポケットの紙切れに書き留めることを習慣にしている。指が太いせいかスマホはどうも...。

   手書きに利点があるとすれば、打ち間違いがないという点だろう。そもそも打たないのだから、発想と媒体の間に行き違いは起こらない。すなわち、思ったことと書いたことが一致する。だから、泥酔時などを除いて〈夏を過しっ死〉はない。

   意味不明のスマホメモにあきれながら、川上さんは結語でこう嘆く。

「こうして...すごく重要だったかもしれない何かが、永遠に失われてゆくんだね」

   私にも、ひらめいたものが何かの拍子に霧消した経験がある。しかもその頻度は増すばかりだ。すごく重要だったかもしれない何か...ではあるが、忘れたり解読不能だったりするような文字列は、もともと大したアイデアではなかったのだろう。

   永遠に失われたとしても、たかが一部品。作品全体を動かす代用品は、プロならいくらでも思いつくはずである。

   そういえば、本稿にも素晴らしいオチがあった気がするのだが、思い出せないまま、そして代わりを思いつかないまま、ここに締め切りを迎えたことを記しておく。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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